再会は未だ


※魔神任務クリア後
至らぬところは目をつむってください


 水に映った欠けた月を掬い、ナヒーダはふわりと微笑んだ。ここは夢、眠りについた旅人の束の間のまぼろしの世界。

 旅人の夢の中は実に複雑で興味深いものがたくさんある。白い最高の仲間はもちろん、七神から始まりこれまで出会った軌跡が見えるようなものと人が溢れんばかりだ。
 時にキノコンがめちゃくちゃに夢の中を飛び回っていたかと思えば、静まり返った雪原に出ることもあって、ナヒーダの新しい楽しみになっていた。
 旅人はこの世界だけではない場所からやってきた存在だ。この世界の常識に囚われない、金色の風。誰もが彼女に惹かれて、その存在に目を奪われる。引き止めようとしながらも、決してその歩み止められないことを知っている。名残惜しさを残すのだけは人一倍うまい、とてもずるいひと。

 ナヒーダはぴょんと飛んで夢を散歩した。旅人にはきちんと許可をとっているし、たまに夢の中で意識のある旅人とおしゃべりをする。夢の中で出会う彼女は少しだけ素直だ。普段よりもっとおしゃべりと言うべきか、真偽を問わずやりたいこと叶えたいことをするりとこぼす。「パイモンと食べてみたい料理がある」、「ナヒーダをこの間見つけた景色の綺麗な場所へ案内するね」なんて。
 猫が懐いたようなくすぐったさを思い出しくすくすと思い出し笑いをしながら進む。ここはアランナラの住むところ、ヴァナラーナによく似ている。彼女はアランナラが見えるし、どうやら共に儀式を行ったりと仲良くしてくれているみたいだったから、気に入ってくれたのならとても嬉しいと思う。

 そうして懐かしい森を進んでいくと、ふと花々が敷き詰められた空間に出た。旅人の頭の上に飾られたあの花だ、ナヒーダはそう思った。薄い青はどこまでも広がり、果てがない。その中に二つ、金色の髪が揺れている。
 旅人と、よく似た雰囲気の少年が楽しそうに寄り添いあっている。それは誰に見せる顔とも違う。本当に安心し切った家族だけが知る顔。ナヒーダは多くの人の夢を渡ってきた。その中には家族との夢を見る人間がもちろんいる。ほとんどの人間は愛するものと共にいられる喜びを隠そうともしない、幸せな夢を見ていた。
 ナヒーダも覚えはないが誰かに暖かく抱きしめられた記憶がある。わけもわからず涙が溢れて寂しさに身を焦がすこともあった。そこにあったはずのぬくもりは霧のようにかき消えてしまったから、余計に。

 ナヒーダはそっとその場を後にした。旅人が起きるまで夢を守ることにした。ずっとずっと追い求めていたものに追いついたときの言葉にできぬ気持ちを、ナヒーダは知っている。夢のさざなみが遠くから、風のように波のように響く。
「お兄ちゃんに会いたい」と口にされることはなかった、いつ叶うかもわからない願望をいつも胸に秘める蛍の眠りだけは誰にも邪魔されないものであってほしいと、祈っている。

 彼女が片割れに再び巡り会えたとき、世界はどんな姿へと形を変えるのか。
 草神はひとり、夢想した。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -