錯乱するスレッタ2編


 スレッタは走っていた。
 ぴちゃぴちゃと不快な音が足元からする。赤い、赤い、鉄臭い匂いの何か。スレッタは見ないふりをする。見ないふりをして壊れてしまいそうな心を守る。
 お母さんの魔法はすごいから、この怖いものもいつかいなくなる。エアリアルはすごいから、スレッタを中に招いて怖いものから守ってくれる。
 だから。
 だから大丈夫。そう。うん。きっと。
 怖い。怖いよ。
 おかあさん。えありある。みおりねさん。えらんさん。みんな。
 だれか、だれか、きて。
 わたしが、わたしが人を傷つけたから、来てくれないのかも。
 涙が止まらない。怖くて目を逸らしてきたものを突きつけられる。



 ……なんて?ミオリネさんは今なんて言ったの?
 負けちゃった、から?
 どうしよう。どうしようどうしようどうしようどうしよう。
 …ミオリネさんから返されたクールさん。ミオリネさんにやっぱり似てるなあ。かわいい。
 頭がうまくまとまらない。目の前がうまく見えない。
 落とした視線をもう一度ミオリネさんに向けると、ミオリネさんは冷たい目のままコクピットから外へ出ようとしている。
 もうすぐ止まってしまったエアリアルを回収する為にたくさんの人が来る。
 エアリアル、とられる?とられる?なんで、負けちゃったから。なんで?ミオリネさんが、みおりねさん?なんで、わたしいらな…

「ああああああ!!!」

 理解できないことばかりで頭がショートする。思わずコクピットにしがみつく。ミオリネさんが足を止めて振り返った。

「な、」
「やっいやです!!!いや!!!」

 わたしのせいでみんなおかしくなった?みんな言っていた。「お前のせいで」って。ちがう。わたしは正しいことしてる。
ーー本当に…?

「おかあさん!!!おかぁさん!エアリアル!!嫌ですいや、いやいやいやいや!!!!」

 助けて。たすけて。みんなわけわかんない。私の知らないところでたくさん動いて、置いて行かれて。

「お願いですエアリアルだけは連れていかないで !!!一緒に学校行こうねって約束したんです。一緒に、いっしょに…」

 エアリアル。ごめんねってなに?みんなわかんないことしないで。

「がっがんばります。わたし、なんでも。役に立てるようにがんばります。おねがい、お願いですおねがいミオリネさん…」

 お母さんの顔潰しちゃう。このままだと学校にもいられない。みんなに、迷惑をかける。
 エアリアルから離れたくない。心細かった夜も、楽しいことも一緒に、これからもいっしょに…。
 いやだ。

「おかあさん!!!おかあさん!!!!」

 助けて、たすけて、かぞくが。

「おいていかないで!!おねがいします!!わたし、がんばりますから!!!」

 たくさん、受け入れたくないことばかり起こる。人を殺してしまった。目の前でソフィさんが死んだ。エランさんが変わってしまった。ミオリネさんも。エアリアルも。いっぱい、いっぱい。
ーーわたしのせい
 私が、学校に行きたいなんて言わなきゃこんなことにならなかった。わたしが、私、わたし、勘違いしてばっか。
 ぷつりと何かが切れる。何も聞こえなくなる。

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