ひとときのゆめ
※幻覚しか見えていません
シンと静まり返った格納庫の中、スレッタはエアリアルのコクピットへと乗り込んだ。よく声の聞こえるようになったみんなとおしゃべりをして、水星にいた頃のようにコクピットで眠る。
それは一人見知らぬ場所にやってきたスレッタにとって、心細さを紛らわすのに充分なものだった。
暗い機内に光が走り、薄ぼんやりとした影が生まれる。
すやすやと眠るスレッタの周りに、彼女によく似た子どもたちが群がりだした。思い思いの位置に陣取ると揃って寝顔を眺めている。
ふくふくとまろいほっぺ、ぴったりと閉じられている大きな水色の宝石が閉じ込められた瞼、複製元と同じ丸い眉。健康的な肌には傷ひとつなく、エアリアルとガンビットたちの仕事が完璧であることの証明であった。
ーエリィの手足、私たちの家族
ーいつか置いていかなくちゃなの?
ーわたしたちと同じなのに
ースレッタは、生きてるからね
ーエリィのために生まれたんだもん。エリィの決めたことに従わなきゃだよ
かしましくひそひそ話をしていると、耐えきれないと言わんばかりに一人がぴったりとスレッタの側へくっついた。
ある一人はじぃっと頭のてっぺんから手足の先まで、自分たちも成長できていればこうなれたのかと想像を膨らませている。
ー私たちの動きに合わせられるのスレッタしかいないもん
ースレッタは賢いもんね
ーうんうん。MSの操作技術、水星一だもの
ーさすが!
『…僕のパイロットだからね』
得意げな顔をしてエリクトがスレッタの膝にちょこんと座っている。いつも騒がしいカヴンの子たちはエリィの話し相手たりえない。スコアが上がってからはもっとうるさいのだ。
だからエアリアルとしてではあるが、懐いてくれるスレッタがかわいくて仕方ないのだろう。
ーエアリアルのパイロットだからー、私たちのパイロットでもあるわけ!
ーそうそう。独り占めはだめだよ
ーえいえい!スレッタの膝はわたしのもの!
やんややんやと抗議の声が上がる。スレッタに対する思いはそれぞれ違えど、大切だという気持ちは共通だ。
ー私たちも生まれたかったな
ーそしたらスレッタには会えてないね
ーえー…じゃあいっか…
ースレッタの強さを相手にわからせるの楽しいもんね
血気盛んなガンビットももちろんいる。楽しそうに腕をぶんぶんと振りながら、戦闘の高揚感を語っていた。
エリクトは彼らを尻目に眠るスレッタを見上げた。いつかスレッタはこのゆりかごから出て、自分一人で生きていかなくてはいけない。
いつも我慢ばかりで、自分のやりたいことを押し込めてみんなのために頑張っているスレッタが、自分のために動けるようになるまで。それまではエアリアルがスレッタを守るのだ。
頭の後ろからとくとくと心臓の音がする。心地いいリズムはスレッタが正常に生きていることのなによりのあかし。
いつのまにかカヴンの子どもたちはいなくなり、コクピットには二人だけが取り残される。
突き放すその時までは、どうか大好きでいてほしいなんて身勝手は喉の奥に押し込んだ。