猫になったエランさん
※ほのぼの
獣化注意?
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スレッタは温室の世話を終えて、アスティカシア学園を歩いていた。正確には温室の主たるミオリネがやってきたことにより、世話を交代したのだ。仕事が忙しいらしくやつれたようなミオリネは温室で少し休むらしい。お礼を言われて、トマトも数個もらった。きちんと部屋に戻って休むことを約束して、帰り道を歩く。
トマトを齧りながら人工の植物が植えられた道を歩く。ふとがさがさと植木が大きく揺れた。そして何かが飛び出してくる。
「ひっ…?!!」
考えごとをしながら歩いていたため油断していたスレッタから悲鳴が飛び出る。
「ニャー…」
……猫だ。
実物を見たのは初めてだが、誰かが連れてきたのだろうか。そのつやつやとして綺麗な毛並みにスレッタは好奇心から手を伸ばす。しかし猫が一瞬びくりとはねて後退りしたため、伸ばした手を中途半端に止めてしまった。
「そ、そうだよね。いきなり触られるのこわい、よね」
しゅんとしたスレッタを見た猫はなんだか申し訳なさそうな顔をしてにゃあと鳴くとそっと頭を押しつけてきた。まるで気にしていないと伝えようとするみたいにぐりぐりうりうり。
「えへへ、かわいい…。どこの子なんだろう…」
慣れないながらに優しい手つきで撫でると猫はごろごろと喉を鳴らした。嬉しそうに細められる薄い緑の瞳はどこかで見たことがあるような気がする。
「なんだかエランさんみたい」
ぴくりと猫が耳を揺らした。まるで「そうだ」と言わんばかりに。そして素早く植木の方へ飛び込んだ。
「び、びっくりしたぁ」
勢いのよさにスレッタが固まっていると、猫がにゃあにゃあと鳴き声を上げる。
「ま、待って…!」
もらったチョコをそっと植木の影に置いてスレッタは森を進んだ。奥の方は木が多いためか少し暗い。猫は何度も振り返りながら注意深く案内してくれた。
「ニャ、」
ふと視線を猫より前に向けると何かが落ちている。近づいてよくよく見ると制服だ。さらにピアスが落ちている。むらさきの…
「あ、れ?これ、エランさんの…」
「ニャ」
猫が相槌を打っている。スレッタの中でぐるぐると歯車が動き、ついにかちっとはまった。
「あなたは、エランさん…?!?で、でも人間が猫になるなんて…?!」
「にゃあにゃあ」
慌てるスレッタにぽん、とやわこい肉球をエランは押し当てた。まるで「慌てないで」と言うように。
「え、えらんさん…。そうですよね。慌てちゃだめですよね」
猫になったエランをまじまじと見てみれば凛とした目つきやその毛並みからもエランだとわかる。まさか人が猫になるなんて思わなかったので最初は気づけなかったが、見れば見るほどエランさんだ。
「どうしたら戻るのかなあ」
エランは自分の制服を寂しそうに見つめている。猫の見た目とはいえ、珍しい姿になんだか自分も寂しくなってしまうような気がした。胸がきゅっとなる感覚にスレッタは小さな猫を抱きしめた。普段とは勝手が違うから力加減に気を使って、ぎゅうぎゅうと。
「エランさんだいじょうぶです。戻る方法ぜったい見つけます!」
「…にゃ!」
少し元気になってきたのか、大きな鳴き声が返ってくる。ほっとしたはいいが、どうやってエランさんを元に戻そう。そういえば、以前エアリアルのライブラリにこんなお話があったっけ。カエルになった王子さまをキスで元の姿に戻す物語。
「…よ、よし!」
決意を固めた自分を不思議そうに見つめるエランさん。なんとなく照れ臭いが、背に腹はかえられない。目を閉じてそっと額に口を近づける。するとエランさんが勢いよく飛び上がって………
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「はわ」
ぱちっと目を開けると見慣れた部屋の天井、そして上から覗き込む端正な顔。
「えええええ、エランさん?!!!な、な、なんで、」
「ここは僕の部屋だよ。待たせてごめん」
そう言われて思い出す。エランさんとチョコレートを食べようと部屋まで来たはよかったものの、会社の用事で遅れてしまうと連絡がきた。だからベッドに座って待っていたのだ。
「ご、!ごめんなさい!!寝ちゃいました!!!」
「それはいいけど、どんな夢を見てたの?」
「…へ?」
「名前を呼んでたから」
「えっ」
「教えてほしい」
「そっ、それは」
「だめ?」
猫みたいにしなやかにエランはするりとスレッタと手を絡めた。ぎゅっと握られて手袋の下の柔らかな手のひらの感触になんだかふるり、と体が反応してしまう。緑の瞳はこちらを射抜いて離そうとはしない。自分も相手も頑固なところがあるから、たぶん話さなければ許してはもらえない。
「え、エランさんが猫になってて、戻すために、そのきすをしようとするゆ、めを」
「ふぅん」
きゅっとエランの瞳が細められる。猫の姿のエランさんもそうだったなと思い出すとなんだか笑みがこぼれてしまった。
「かわいかったです。ふふっ、猫のエランさん」
「…にゃあ」
「へ?」
「君が見る僕は、ここにいる僕だけでいいよ」
もしかして夢の中のエランさんに嫉妬しているのだろうか。
「夢に見てもらえることは光栄なのに、」
少し膨れているのか、エランさんはぐりぐりと頭を押しつけてきた。
「えへへ、いつもエランさんのこと考えてますから!」
柔らかな髪を撫でて抱きしめる。やっぱり本物が1番だ。暖かな体温を感じることができる喜びは何者にも変えがたい。
エランがそっと頬に口づける。くすぐったそうにスレッタは笑い、お返しと言わんばかりにエランに口づけた。
夢の続きみたいに甘いふたりの戯れはまだまだ続いていった。