狂気と狂気を
短編集より
廃れた町。そんな町に、一人の少年の足音だけが響く。あの頃はあんなに賑やかだったのに。そう呟きながら、足をゆっくりゆっくりと進める。家々の壁はひび割れ、窓ガラスは割れ家の中には蜘蛛の巣が張っていた。
倉庫に足を運ぶ。そこもやはり廃れていて、少年は悲しそうに目尻を下げた。何本かの鉄パイプが転がり、錆びたドラム缶が無造作に放置されている。もうあいつらも居ないか。そう小さく呟き、倉庫から出ようとすると、―――カサリ―――。何かの物音がする。ハッと後ろを振り向くと、そこには少年の友人が、一人ぼうっと突っ立っていた。
「……お前……!?」
少年が驚いた表情を浮かべる。目の前の友人は虚ろな瞳のまま、少年の事を見つめる。
「……やっと帰ってきた………」
「おい……他の奴らはどうしたんだよ……!?」
スッと友人が指さすそこには、くつもの白骨が転がっていた。ヒッと小さな悲鳴を上げる少年。よくよく見てみると、友人はとても痩せ細っていて、昔のあのたくましい体の面影は既になくなっていた。
「……また俺達を置いてくのか……」
ドキリ。友人の言葉に小さく心臓が跳ねる。
「もう、この村も俺しか居ない……また……俺を置いて……お前は他の土地で優々と暮らすのか……流石お金持ちの坊ちゃん……だな……」
友人はもう笑う気力もないのか、無表情のまま言葉を紡いでいった。
「……お前も一緒に来い!」
少年は堪らずそう叫ぶように言うと、友人の手首を力強く握った。
「……俺はもうここから出れない」
「……え?」
その瞳は、狂気を孕んでいた。
「お前も俺も……ここでこいつらと一緒に死ぬんだ」
その突如、少年の脇腹には鈍い痛みが広がった。少年は目を見開く。少年のその視線の先には、自らの脇腹に深々と刺さった一本のナイフが写っていた。
相変わらずやるな。そう言葉に出そうとしたが、口内は血だかけ。口の端からも大量の血。少年は言葉を発する間もなくその場に体を預けた。
その様子をただ黙って見つめる友人の瞳は酷く冷たく、酷く恐ろしく、地に伏せた少年の手を弱々しく握り、ゆっくりと言葉を発してく。
「……心配するな、大丈夫だ」
何が大丈夫なのか。友人の手はやけに温かく、じわりと広がる痛みを感じながらもどんどんと瞼が重くなってくるそれを感じながら、少年は意識を闇に放り投げてしまった。