推薦状と思惑















「全く、ルカお嬢様もルイ坊っちゃんも

 私に苦労をかけ過ぎですよ……」


ハァ、と大きなため息をつく、

眼鏡をかけた青年――ライ。

ライは珍しく燕尾服ではない、

どこかの組織の青い制服を着ていて、

その姿はどこか威厳に溢れていた。


「副団長!おはようございます!」


聞きなれた声と共に、

一斉に敬礼をするいくつもの団員達。


「あぁ……おはようございます」


それはライ自身が率いる

青の部隊の中でも第四部隊に所属する

隊員達だった。


「今日は早速隊長格の皆さんと団長との間で

 定例会議があるようで…、」

「そうですか。

 なら私はそちらに顔を出してきます。

 会議が終わった頃には戻ってくると思うので、

 皆さんは各自の仕事をしていてくださいね」

『ハッ!!!』


沢山の声が一つにまとまる。

ライはその様子に

ニコリと笑みを一つ見せ、

早速会議室へと足を運んだ。







「最近面白い子が中々居なくないー?」


会議室の中、

堂々と発言をする一人の少年。

嫌、男の子≠ニ言ってもいいのかもしれない。

何故ならその少年はとても背が低く、

見た目も10歳位の年齢だったからだ。


「セナ。

 君はもう少し人の好き嫌いをなくした方が

 いいと思うよ」

「えー?

 そう言う不音こそ

 そろそろ女の子嫌いを治したらいいんじゃないー?

 もう子供じゃあるまいし」


きししっとどこか楽しそうに笑う少年――セナ。

その様子にピクリと青筋を浮かべる

おかっぱ頭の少年――不音(フオン)。


「ねえねえライー、

 誰か面白い子紹介してくれない?」

「へ?」


いきなり話を振られたライは

目を大きく見開かせた。


「わ…私ですか」

「そうだよ!だーって何か……、」

「………?」


そのくりくりとした瞳が

ライの事を射抜く。


「……知ってそうな顔してるんだもん」

「………!」


セナの言葉は決して適当に言っているものではない。

それはセナの意味深な笑みから

想像ができる。


ライはそのどこか黒い笑みに

ぞくりと何かが背中に這う様な感触を感じた。


「おいセナ、

 ライをそんなにいじめんじゃねーよ」

「あ、団長」


そこには

いつの間にか会議室に入って来た自警団の団長、

ルイ・レオナルドが居た。


「ライを虐めていいのは俺だけだ!」

「え、そっちですか!?」


ルイはなんとも誇らしげな顔をしていて、

不音やセナは無言のまま

ライの肩をぽんと叩いた。




「遅れてごめんなさいネ!」


そんな中、

豪快な音をたてて扉を開け放った一人の隊長が現れた。


「遅いぞアーサー!」

「嫌ーさっき特ネタ拾ったのネ!

 記事書いてる間に遅くなったのネ!」


ニコニコと悪びれた様子もなくそう言うのは、

見事な金髪の髪をした

一人の少年だった。


「んで?

 何の話をしてたのネ?」

「……遅れてきた様な人に話す事なんて何も無いよ。

 さっさと席に着いたらどう?」

「相変わらず冷たいんだネ不音!」


ペラペラとよく喋るその口。

アーサーと呼ばれた少年は相変わらず、

ポジティブ過ぎる笑顔を

ニコニコと振りまきながら

自らの席に着いた。


「……さて、

 青の部隊の隊長格全員が

 ここに集まった事だし……、」


そう、

今この場には

自警団の青の部隊の隊長格が全員集まっているのだ。



自警団団長、兼

余りにも凶暴で危険過ぎる事から

現在凍結中の第一部隊隊長、

ルイ・レオナルド。


青の部隊の中でも一番の人数を誇る、

殺人集団の集まりと呼ばれる

第二部隊隊長、セナ。


青の部隊の中でも比較的穏やかな仕事が多い、

書類専門の赤の部隊出身者を多く取り入れる

第三部隊隊長、不音。


こちらも主にデスクワーク派の集まる、

記事魂の熱い第四部隊隊長、アーサー。


戦いの最前線で

青の部達の者達の怪我を治療する、

第五部隊隊長、

兼自警団副団長のライ。



「今回の議題は最近活発化してきてる

 政府や新しい組織についてだ」


いつになく真剣な眼差しが

隊長格全員を射抜く。


普段はあんなにも我が儘で幼稚な自らの主が

こんな瞳をする瞬間が、

ライは好きだ。


ごくりと喉を鳴らし、

目の前に居る自警団の団長に

視線を向けた。


「俺と知り合いが外で食事をしていた

 あの有給をとった日も……

 この前行われた

 様々な貴族や軍人らが集まる会議で

 俺が議長を務めた勤務中の時も、

 政府の幹部か

 まだ詳細が分かってない新進気鋭な組織の奴らに

 俺の命は狙われた。

 その二つの組織がグルになってるのかは

 分からないが、

 だが俺の命が狙われる回数は

 確実に増えてきている」


めんどくさそうに溜息をつくものの

その口は孤を描いていて、


高い地位に居るからと言って

保守的になっている貴族達とは

到底違う態度を団長は見せていた。


「警備を強くしても

 すぐ突破されちゃうしねー」

「これでも

 団員達も強くなってきてるんだけど…」

「つまりは敵の方が

 一枚上手だって事ネ!」


どこか楽しそうに呟く隊長格。


(……流石自警団の中でも

戦闘専門≠ニ呼ばれる青の部隊の

 隊長格なだけはありますね)


なんだかんだ言って、

青の部隊の隊長格は全員戦いが好きだ。


だからこそ様々な組織との対立や

政府との戦いで

最前線で戦う事ができるのだ。


「そんな中で俺が実感した事。

 俺がいつも命を狙われるのは

 この自警団から離れた時なんだ」

「……!」


何かがライの中で納得がいく。


「分かったか?ライ」

「……はい。

 つまりは自警団本部に居るのが一番安全……と」

「そういう事だ。

 という事で俺は暫くここに閉じ籠ってる。

 お前らだけでも最前線で戦えるだろ?」


ニコリと笑う団長。


「でもさー団長!」

「…なんだ?セナ」

「確かに団長が閉じ籠ってくれれば

 僕達としても警護しやすいよ。

 だけど………、」


こてりと可愛らしく首を傾げるセナ。




「閉じ籠れば……敵に囲まれちゃうけどいいの?」




スッと瞳を細めてそういうセナに、

団長は余裕そうな笑みを零した。


「俺はお前達の腕を信用してる。

 囲まれるんだったら

 自警団の警備をもっと強くすればいい。

 人員が足りなければ赤の部隊からとってくればいい。

 あそこの奴らは強くはないけど………

 数でなら負けてない」

「…でもそうなると全体的に

 自警団の団員数が足りなくなると思うよ」

「来年に自警団の入試やる予定だろ?

 それを今年に移して

 人員を確保する」

「でもそうすると

 宿舎とかが足りなくなるんじゃないネ!」

「それは自警団に

 大量の金を寄付してくれてる貴族らに頼んで

 建ててもらえばいい」

「しかしそうも簡単に上手く事が運ぶとは

 限らないよ。

 万が一貴族の方が―……、」



その日の会議はとても長く続いた。

少なくともライにはそう感じた。




団長、

もといルイ・レオナルドの持つ権限、財政力、

そしてその圧倒的な力。

それらが今の自警団を形成していると言っても

過言ではない。


もし政府や未だ詳細の知れない組織に

団長が殺されたとしても、

暫くの間は自警団はやっていけるだろう。

しかし、

トップが居なくなれば

幾ら個々の力を持っている部下たちも

統率がなくなり、

その力を生かす事ができなくなる。


そうなる前に別のトップを作るという手段もあるが、

自警団の団員達は

基本的に荒々しい性格をしていて、

素直にそのトップを認めるとも思えない。



どっちみち新しい自警団団長の後継者ができるまで……

その後継者が団員達全員に認められるまで……



今の団長は死ねないのだ。

否、死ぬ事が許されないのだ。



「ねえねえライー!」

「っわぁああ!?」


思いっきり腰に響くもの凄い衝撃。

暫くしてから、今のはもの凄い力で

誰かに腰に抱きつかれたのだという事が分かった。


嫌、誰かにと言うか、

もう相手は分かってるんだけれども。


その子供じみた独特の高い体温と、

まだ幼さの残る声。


「……どうしましたか?セナ隊長……、」

「あのさー会議の始まる前に言ってた事覚えてる!?」

「会議の始まる……前……、」





「ねえねえライー、

 誰か面白い子紹介してくれない?」

「へ?

 わ…私ですか」

「そうだよ!だーって何か……、」

「………?」


「……知ってそうな顔してるんだもん」


「………!」






「……まだ覚えてたんですね」

「当然だよ!」


プンプンと可愛らしく怒るセナ。

そんな姿を―――自らの主、兼自警団団長と重ねながら、

ライは小さく苦笑を洩らした。


「僕の勘は凄く当たるからね!

 どうせいわくつきの人を

 どうやって自警団に入団させようか

 迷ってたんでしょ!」

「……凄い具体的ですね」

「でも当たってるでしょ?」

「……まあそうですねぇ……」


そしてもう一人の主―――

現自警団団長の妹を思い浮かべながら、

もう一度ばかり苦笑を洩らした。




「僕、推薦状書いてあげてもいいよ?」




「……え?」


にこり。

そう効果音の付きそうな笑みを見せるセナ。


それとは対照的に、

ライは大きく目を見開いて

ぴしりと固まってしまった。



ライにしてみれば

見ず知らずの者の為に推薦状を書くなど言いだすセナに

驚きと困惑を感じているのだ。


しかし、セナにしてみれば

ライの、自警団副団長の見込む者という肩書さえあれば

それで十分だった。


セナは子供だ。

それ故に残酷で、

玩具がなければつまらない。

そして

自警団の中でも猛者の集まり、青の部隊の第二部隊。

それらを束ねるセナは

連日の様に戦いの最前線で戦っている。

そういう状況の中というのもあり、

子供独特の残酷さがすくすくと育っているのだ。


「でもさーその変わり、

 その子を僕の隊に入れてよ」

「……!」


その途端、

いっきにライの目つきが鋭くなる。


「……よっぽどその子の事が大事なんだねぇ。

 益々気になってきた」


ペロリ。

赤い舌が唇をなぞる。


そうだ。

元々こういう人なのだ。

自分の玩具は自分の手元に置く。

それから目一杯可愛がる事もあれば、

気に入らなければ

目一杯苛めて壊す。


溢れ出そうな殺気を抑えながらも、

ライはその笑みを崩さずに

セナに言い放った。


「……貴方の傍に置くとろくな事になりません」

「そんな事ないよ。

 僕の傍に居れば沢山の戦いの経験値を稼げるし、

 何といっても

 僕の隊は人数が多いからね。

 皆に可愛がってもらえるよ!」


きっと≠ヒ!

そう後から付け足す様に言ったセナに

苛つきを覚えながらも、

ライは笑顔の仮面を壊さない様にと

慎重に言葉を紡いだ。


「で、その子は女の子?男の子?」

「貴方には関係ありません」

「そう言わずにさぁ!」


ニコニコニコ。

純粋な笑みだからこそ、

セナの異常さが分かる。

ライはそんなセナの様子を見て、

ついにくるりと背を向けてしまった。


「他の方に頼みますので大丈夫です」

「……本当に大丈夫なのかな?それ」


クスリ。

小さなそれがライの耳に響く。


「……どういう意味で?」

「不音は女の子は絶対NGだし、

 男の子も赤の部隊からじゃないと

 推薦状書いてもらいえないし」


コツリ。

こちらに歩み寄る音。


「アーサーはまともに見えて

 一番変態で危ない人だからね。

 それに記事の為ならば何をしでかすか

 分からない様な人だから、

 あの人に推薦状を書いてもらったら

 その子が入団してきたら

 この先もの凄い苦労するよ」


コツリ。

また一つ聞こえる、音。


「ライは勿論推薦状書くよね?

 ま、そもそも推薦状は隊長格の人物が

 二人以上記名しないといけないはずだし、」


コツリ。

どんどんと近付いてくる、それ。


「団長は……

 多分ライが頼めば書いてもらえるだろうけど、

 でも団長は団長。

 この組織のトップの人間。

 そんな人に推薦状なんて書いてもらっちゃあ……

 その子、

 他の団員達から

 ひいきだとかお気に入りだとかで

 色々言われちゃうと思うよ」


コツリ。

自分の真後ろに――立っている。

気配で分かる。


だけども振り向けない。

振り向いたら――なんだかいけない様な気がして。


「だからさぁ……

 僕にしちゃいなよ。

 僕が一番てっとり早くってなんの障害もない。

 だから………ネ?」


ク ス リ 。

その笑みは酷く歪んでいて………

ライはぞくりと恐怖を覚えた。


「……そんなに踏ん切りがつかないならさ、

 しょうがないから

 僕の方で少し譲歩してあげるよ」


ピンと人差し指を立てるセナ。


「その子……

 僕の傍に置かなくていいよ。

 つまりは

 第二部隊にわざわざ配属しなくていい。

 これでどうかな?」

「………、」


その誘いはとても甘美だった。

甘くって、

なんだかそれでいい気がして。


「………」


無言を肯定と受け止めたのか。

セナはニコリと純粋な笑みをライに向けて、

どこか楽しそうに言葉を紡いだ。


「その子に関しての書類とか推薦状の記名とか、

 色々やる事があると思うから

 明日副団長室にお邪魔するね」

「………分かりました」

「んじゃあねーライ!」


コツコツコツ。

実に軽やかな足取りで……

ライの横を通り過ぎ、

その場を去っていくセナ。


「……なんでこうも怖い人達が

 周りには多いんでしょうか」


自警団の団長、その妹、

そして幼き隊長格……。


「………ハァ、」


また一つ苦労が増えた。


なんだか胃がキリキリ痛むのは

気のせいだと思いながら、

ライは自らの部屋に足を運んだのだった。































 ▼後書きのコーナー

 今回は沢山の新キャラ達が出てきましたー!
 その中でもセナはお気に入りです。
 そして一番書きにくいのはアーサーです←
 アーサーらしさをもっと出せる様に、
 これから沢山練習しないとなぁ……(遠い目)

 セナは見た目十歳位の超子供です。
 のくせに凄く勘がよくって
 とても強いです。
 まあこの後セナの血筋とか……
 セナのお兄ちゃんとか……
 色々出す予定です。
 意外と秘密で溢れてるんですよこの子←

 さてさて…これで入団編は終わりです。
 次は新しい編に入ります!
 これからもどうぞ「神速の青」を
 読んでくださると
 とても嬉しいです!





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