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(18)

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爆炎と粉塵の中心で。
その女は華奢な体躯に不釣り合いなロケットランチャーを吊り下げて、今まさに悪魔を"撃ち"破らんとしていた。
「──悪魔退治も進化してンのな。むか〜しオレが潰したの、投石器とか大砲だったぜ」
「投石器?グリフォンって思ったより長生きしてるのね」
「ヘッヘ!人間との付き合いだってそれなりにな!ウイユヴェールもオレ様を敬ってイイんだぜ?」
「…年を取っても精神年齢はそうじゃないのねって関心したの」
「ンン?そりゃ若いってコト??なァV?」
「そうだな……来るぞ──」
Vは会話を中断すると、纏わりついてくるグリフォンの首根っこを杖で引っかけてウイユヴェールにパスした。
きょとんとするウイユヴェールを後ろへ下がらせてシャドウを喚び出す。
すぐ脇の建物上階の壁をクリフォトの根が突き破ったのと、空を横切った弾頭がかち合い爆発を起こしたのは同時だった。
頭上を覆うように形を変化させたシャドウが降り注ぐ破片から三人を守る。
「…手当たり次第か。相変わらず荒っぽいな…」
「ゲェッホッ!オェッ、ペッぺッ!おいコラァ!ヒトがいんのに撃つんじゃねェよ!ぺしゃんこになっちまうだろーがッ──ってまた撃った!!」
砂埃が止まぬ間にもう一発。
Vたち目掛けて発射された弾を、シャドウが尾を鞭のようにしならせて打ち払う。
煙る視界の向こうから女の声が響いた。
「こんなところにいるなんて逃げ遅れた市民かしら?──でも…そんな器用な避け方、悪魔にしかできないわよねぇ?」
煙りが晴れると拳銃を構える女が現れた。
丈の短い白いジャケットに黒のショートパンツとロングブーツという動きやすさを重視した服装だが、女が纏うのはそれだけではない。
何本もの太いベルトやホルダーが女の腰と太ももを飾り付けている。そこに収まる銃火器の数々は一人で戦争を始められそうな物々しさだ。
「…逃げ遅れた一般人、それに悪魔というのも間違ってはいない」
「あら?あんた依頼人じゃない。何でこんなところにいるの」
「観光、とでも答えればいいのか」
Vの姿を見留めた女は拳銃を下ろす。
「ごめんなさいね?Vって言ったかしら、戦えるようには見えなかったから」
黒髪の短いウルフヘアの下の瞳を細めた。
「悪魔を使役するなんて物好きね。で?後ろの彼女も、だいぶ悪魔と仲良しみたいだけど?」
「ケェーッ!さっきから質問ばっかしやがってッ!オレは別にコイツに使われてるワケじゃねェし、お互いのためにゃコレがベストなん──ムグッ!?」
「グリフォンっ…しーっ…!」
「…彼女は知り合いだ。安全な場所まで連れていく。目的の場所へ向かうのはその後だ」
女は「ふぅん」と頷くと、品定めをするようにVを眺め、それからグリフォンを抱くウイユヴェールへと視線を移した。
ブーツの底が砂利を踏む。
一歩ずつ近づいてくるにつれ、女の瞳が赤と青、左右互い違いの色をしていることにウイユヴェールは気がついた。
薄らと残る鼻梁の傷痕も含めて、年若く見える風貌には愛嬌がある。けれど好奇の笑みを浮かべる余裕が、このような危険な場所に慣れきっている人間であることを表している。
「じゃ、あんたも一応は参加するってこと。ところで魔王は…あの樹?のどこかにいるのかしら。ついでにアレって魔界の生き物か何かなワケ?」
そっちのオウムにまた睨まれそうだけど──。
アピールをするように女は大きくため息を吐く。
「質問が多いのは全部そっちのせいだから。情報は少ない、出所も不確か。それで"魔王が蘇るから人数が必要だ"なんて、そんな胡散臭い話に飛びつけるのはダンテくらいだわ」
ウイユヴェールの腕の中に収まり、くちばしを押さえられていたグリフォンが頭を振ってプハッ!と呼吸する。
「そのクセ、のこのことレッドグレイブに来やがったのはドコのドイツだよ、アァッ!?」
「提示した額の支払いさえあれば別に文句ないわよ」
「散々言ってんじゃねェか!」
「──あれはクリフォトだ。魔界と繋がっている…。あの中にいる魔王の討伐が俺からの依頼だ。人数が必要な理由は"見て"納得してもらえたか?」
Vがクリフォトの樹を杖で指すと女はあっさりと同意した。
「…そうね。確かに考えてたよりも大事だったって認めるわ。アレが現れたから様子を見に来たんだけど…。一度装備も見直したいし、私も戻らないとね」
拳銃に手榴弾、そしてロケットランチャー。
これだけの装備に身を包んで他に何が必要なのか。…そして女らしい曲線を描く身体のどこに、それらすべての銃火器を支える力があるのか。
ロケットランチャーを背負い直す女へウイユヴェールは尊敬の眼差しを向ける。
同時に、以前Vとダンテが話していたことを思い出す。
「──そうそう。私、トリッシュには会えたんだけど、ダンテにはまだ会えてないのよね。どうせもう来てるんでしょ?V、居場所を知ってたら教えてくれない?」
トリッシュ…というのは先日助けてくれた金髪の美女のことだろうか。
「数日前に顔を会わせて以来、ダンテとは連絡を取っていない」
Vはトリッシュについて多くを口にはしなかったが、確かダンテは"おっかない女がまた増えた"などと零していた。
それがこの黒髪の女性のこと…かもしれない。
「ちょっと、それでどうやってアレと戦うのよ」
「ダンテのことだ。強力な悪魔がいる方向を目指していけば最終的に魔王に辿り着けると思っているんじゃないか」
「V、あんたダンテを馬鹿にしてる?」
「違うのか」
「私もソレ同感。ほんっとアイツふらふらして、情報の交換もあったもんじゃないわ」
"おっかない"という言葉がダンテの軽口だったとしても、ウイユヴェールには彼女への憧れめいた気持ちが涌く。
悪魔と対峙できる彼女ならVと同じ場所に立って同じ目線で考えることができる。
逃げるだけの自分とは違い、足手まといにもならないだろう。
「……いつまでそうしてるつもりだ、ウイユヴェール」
「え?」
無意識にグリフォンを抱き締めていたウイユヴェールがはっとする。
顔を上げると呆れたような表情の二人がいた。
「ごめんなさい、考え事してたわ。…なに?出発?」
「こんな場所でぼーっとできるなんて図太いわね。紹介が遅れたけど、私はレディ。趣味でデビルハンターをしてるの」
「よろしく。私はウイユヴェールよ。数日前に人生ではじめて悪魔を見たけど、…趣味で悪魔を相手にするあなたも変わってると思うわ」
「かもね」
レディは気を抜いたようにふっと笑って歩き出す。
迷いなく歩きはじめられる白いジャケットの背中を眩しく感じて、ウイユヴェールは小さく息を吐いた。
「…疲れたか」
「V…?ううん、全然っ!私は元気よっ」
Vの静かな眼差しに、ウイユヴェールは余るほどの返事をする。
触り心地が良くて手離せずにいた羽毛の塊も空へと返した。
「窮屈だったわよね。ごめんなさい、グリフォン」
「あったか〜くされっちまうと母性本能が疼くぜ。思わずタマゴ産めそーよ、オレ」
普段よりも比較的穏やかに飛び立ったグリフォンがくちばしを開くと、Vがやれやれと頭を振った。
手持ち無沙汰になってしまった両手が涼しい。
レディとVの後に続いてウイユヴェールも歩きはじめる。
すると今度は、その腕をくぐるようにシャドウの頭がずぼっと入り込んできた。
「わ」
じゃれついたのか、それとも急かしたのか、口数の少ない魔獣の意図は読めない。
けれど頭のてっぺんを擦り付け、厚みのある胴体をのっしりとウイユヴェールの脇腹に押し付ける。
太腿からしっぽの付け根、その先までをするりと絡めると、やっと満足をしたのだろうか、とろりと地面に流れ溶けてVの刺青へと戻っていった。


180925
("22 加筆修正)
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