ウチの学校は全体的に設備が古い。工業高校はどこもそんなものなのだろうか。教室のエアコンがご臨終を迎えて、時代錯誤なストーブが設置された。 私の席はストーブのすぐ近くで、暖かな暖房の恩恵を貰って快適な日々を過ごしていた。けれど、今日突然実施された席替えで、突然極寒の世界に身を投じることとなった。
元・私の席を引き当てた男子のあったけーーーやったぜーーーという叫び声が遠くから聞こえる。そうでしょう暖かいでしょう。私もそこが良かったよ。 総人口の一割に満たない女子のうち、殆どはジャージ下履きにブランケットのダブルコンボで冬を過ごす。私はというとプライドが先行してしまって、ジャージは履かずにブランケットを膝に掛けて寒さを凌いでいた。今年は暖かさに事欠かないスクールライフを過ごしていたので、ブランケットは家のどこかへ仕舞ってある。帰ったら探そう、明日から凍え死んでしまう。せめて寒さを和らげようと思って冷え固まった手に息を吐き出していると、にやにや意地の悪そうな顔で近付く二口と目が合った。
「うっわ、寒そ〜何なのお前、苦行でもしてんの?こっちまで寒くなるわ」
「席替えするって聞いてたら何かしら対策してたっつーの、担任ゆるさない…」
「いや、苗字のことだから聞いてても結果は変わらねーと思うけど」
と、突然目の前が真っ暗になった。二口が何かを被せたんだろう。何するの、と文句を言おうとしたけれど、被せたものを見てはっとした。
「優しい二口君が貸してやるよ、有り難く膝なり肩なり掛けとけ」
「ちょ、上着…!二口、寒くないの」
「俺は部活のジャージ着るからそれはいらねー」
でも、と続けようとしたところでチャイムが鳴った。二口はもう過ぎたことのように、素知らぬ顔で席に着き、ごそごそと鞄を漁りジャージを出していた。私の二つ前、一つ左の席。そこだって決して暖かい席ではないというのに。

相変わらず退屈気味な授業をぼんやり受けていると、斜め前からはっくしょんと小さなくしゃみが聞こえた。やっぱり寒いんじゃん、二口。ちらっとこちらを振り返った二口と目が合う。バツの悪そうな顔で睨んでくる二口を見て、声を殺して笑った。二口はこういう奴だ、へらへらしていて普段意地悪なくせに、本質は優しくて詰めが甘いのだ。



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