ぶるりと寒気がして、目をあけた。近くに転がってるスマホを見ると、寝起きには眩しい光が射す。時刻は7:42で、家を出るのは8時だからまだ寝れ…寝れない…けど眠い。

「はっ!?」
一瞬記憶が飛んだ、多分。スマホは7:57という文字をでかでかと表示していて、何だ、15分しか二度寝してないじゃないか。…何だじゃない今日は平日じゃん学校あるじゃんか…!!
ベッドから飛び下りて急いでクローゼットを開ける。今バキッって音が聞こえた気がするけど確認してる暇はない。ごめんクローゼット帰宅したら確認するね。
着慣れた制服に身を包み、ぱぱっと髪をとかすだけ。私の高校の女子はギャルとそうでないのとで二分されている。キラキラ高校生を謳歌してるギャルに憧れを抱かないでもないけれど、こういう日には化粧をしてなくて良かったと心から思える。朝ご飯を食べる暇は勿論無くて、すぐさま家から飛び出た。
遅刻は嫌だ、何が嫌って静かな教室にガラガラと引き戸を開けて皆から注目される瞬間。着席するまで視線は痛いほど浴びるし、担任からはグチグチ文句が飛んでくる。私が経験したことがあるのは注目する側だけだが、反対の立場には絶対なりたくない、巧くかわせる器用な人間なんかじゃないもの。

ひぃひぃ言いながら走りつづけて数十分、ようやく校門にたどり着いた。と同時にチャイムが鳴った。予鈴と同時に担任は教室へ向かう。もう駄目だ、遅刻決定。
「はぁ、もうやだ…帰ろうかな…」
「えっもう帰んの?」
「へ、」
完全に独り言だと思っていたのは私だけだったのか。後ろから返ってきた言葉を辿ろうと振り向けば、同じクラスの及川くんが立っていた。及川くんと言えば常にクラスのキラキラした空間の中心人物である、スクールカーストの最上位に君臨するお方だ。話したことは一度もなければ、目を合わせたこともないだろう。失礼ながらもチャラ男のレッテルを貼らせてもらってるのだが、ほぼ初対面の私に対しても気軽に話しかけるということは、レッテルは間違ってなさそうだ。
「今から教室に入るの、浮いて嫌なので」
「あー分かる。こっち見るなよって思うよね〜。ならさぁ、二人で入ろうよ」
「え…いや、及川くんと一緒はちょっと、」
悪目立ちするから嫌です。なんて言えることは出来なかった。
「ちょっと、ってひどいな〜ほらほら、行くよ」
「わ、ちょっ」
背中を押されて、いつもよりも速い速度で教室へ向かう。後ろから押す及川くんの手は、少し、いやだいぶ強い。ぐいぐい押してくる。転ばないようにしないと、と思っていると急に手が離れた。
「どうしたの、及川くん」
「んー、せっかくだから、時間稼ぎ」
「…?と言いますと?」
「苗字サンと話せるなんて超ラッキーだから、もうちょい話してたいってことだよ」
「え、」
何言ってんのこの人。本気?冗談?チャラい人こわいどっちなのかわかんない。大きくてぱっちりした目から射抜かれるように見つめられ、その視線から背けたくても背けられない。及川くんはにっこりと笑顔を作ると、そういうことだから、これからヨロシク。なんて言ってきた。その笑顔がよく見かける笑顔とは雰囲気の違う柔らかなものだったから、つい「うん」って返してしまった。
思ったよりは話しやすい人なのかもしれない。でも、チャラ男のレッテルはまだ剥がしてあげない。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -