「国見」

4月は良くも悪くも、騒がしい。特に入学したばかりの一年の春は、新しい顔ぶれや見知った友達と騒ぐことで精一杯だ。それに俺が当てはまるかと言われたら答えはノーになるのだけれど、少なからず周りは騒がしいし、一年の教室が並ぶ廊下に上級生が近づくなんてことは普通中々ない。
ないはずなのに、懐かしい声が俺を呼んだ。
「…先輩」
「お久しぶりだね〜国見!及川さんから青城に来るって聞いてたから、嬉しくて会いに来ちゃった」
「来ちゃった、って入学初日からこんなとこまで来るとか、相変わらず先輩はちょっとずれてますよね」
この真っ直ぐな物言いといい、一つ上の先輩は一年経っても変わらない。可愛げのない後輩だと自覚はしているものの、何故だか前から絡まれることが多かった。内心喜んでいることに気づいていない先輩は、今日もこうして無意識のうちに俺を喜ばせる。
「国見の毒舌も相変わらずだよねぇ、今日の放課後からもう部活来るでしょ?」
「はい、っていうか春休みから来てるんですケド」
「えっ、まじ。春休みずっと旅行行ってたから知らなかったよー、国見が居るなら部活行きたかったなぁ」
「…俺がいなくたって来てくださいよ、アンタマネージャーでしょ」
「へへ、バレちゃったか。後でお土産渡すね!じゃあまた部活でー!」
ぱたぱたと去っていく先輩を見送りながら、逸る鼓動を落ち着かせる。そんな言い方、勘違いするだろうが。本当に惑わせるのが上手な人だ。
教室の中に居た金田一に「今日部活、行くぞ」と言うと、どうした突然、と目を瞬かせぽかんと口をあけていた。

「ちーっす」
既に慣れてきた体育館へ踏み入れると、苗字先輩が目を輝かせてこちらへ近付いてきた。だから、その顔は勘違いするからやめろって。
「国見!あ、金田一もお久しぶり」
「ウッス、先輩春休み居なかったからマネージャーやめたのかと思いました」
「えへへ、家族に旅行連れて行かれてさぁ、これお土産ね、よかったらどうぞ!」
「アザッス」
金田一が苗字先輩と話している横を通り抜けて、主将の元へ行く。ほんの少しささくれ立っているわけではない、決して違う。
「岩泉さん」
「おぉ国見か、今日から正式な部員だな」
「ハイ、よろしくお願いします」
「お前が来てくれたおかげで、苗字が元気になったわ」
「は?苗字先輩いつも通りじゃないスか」
「はは、だからお前のおかげだよ」
金田一と会話を続ける苗字先輩を見ると、ばちっと目が合った。照れなのか焦りなのか、顔を赤らめた先輩の顔を見て、勘違いではないことに気付いた。何てことない、馬鹿が付くほど真っ直ぐなだけだったわけだ。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -