朝、友達から「風邪引いた」というラインが送られてきた。泣いてるスタンプが続けて届き、「お大事に。ノート取っておくね」と返したメッセージには既読が付かなかった。察するに、だいぶ重い風邪を貰ってしまったらしい。

先に弁解しておくと、友達が少ない訳ではない。ただ大人数のグループに居続けるのは何だか落ち着かなくて、かと言って気の合わない子とずっといるのもストレスが溜まる。基本的に私は二人でお昼を食べ、教室移動も同様なのだ。そんな訳で、友達が風邪を引いてしまうと、私は途端に教室内で独りぼっちの気分を味わざるを得ないのである。
仕方ない、今日は一人で過ごそう。心も身体も凍えそう、そんな不安は授業が始まってしまえば何処かへ消えていった。

四限の終わりを知らせるチャイムは、何となく軽快な気分になる。待ちに待ったお昼ごはん、今日は少し寂しいけれど。さっさと食べてしまおう、お弁当を広げて心の中でいただきますと唱えた時、前の椅子に二口が座り込んできた。
「アララー苗字さんぼっち飯ッスか、かわいそーに」
「なに、冷やかし?そんなに器の小さい人だとは思わなかったなぁ〜」
「可哀想な苗字の為に一緒に食べてやろーじゃん」
「…しょうがないなー寂しがり屋の二口くんの為に、一緒に食べてあげよう」
「素直じゃねーな」
「そっちこそ」
どっさりと私の机に落とされたおにぎり、サンドイッチ、パン。運動部に所属してる男子高校生は本当によく食べる。しかもこんなに食べても太らないなんて…二口と大量のお昼を見比べるけれど、この量が入るとは思えないんだよなぁ。
「お前さぁ、昨日何も言わず帰ったろ」
「え、だって役目は終わったし、いつまでも居たら部活の迷惑じゃない」
「茂庭さんとはやたら仲良さそうに話してたじゃん」
「モニワさん…?誰それ」
「やたら人の良さそうな癖っ毛の先輩」
「ああ!あの人モニワ先輩って言うんだ。すごく良い人だよね、苦労してそう」
「どういう意味」
「そのままの意味」
言葉に出さずとも嫌味を言われていることは伝わったらしい。じとっと睨みつけられたけど、正直二口から凄みは感じられないので、むしろ可愛くさえ思える。たしか二口はいつもクラスでお昼を食べていない。多分、青根くんと食べてるのだろう。口には絶対出さないだろうけど、私が寂しくないようにわざわざクラスに残って一緒に食べてくれるんだから、何だかんだで優しい。自惚れではなく、このクラスで一番仲良いんじゃないかなぁ、なんてちょっぴりの優越感に浸ってみたり。
「何ぼけっとしてんだよ、只でさえ馬鹿っぽいのが更に酷くなるぞ」
「え?あ、ちょっと待って今食べた唐揚げ!私のでしょ!」
「食べないからくれるのかと思った」
「そんな訳ないでしょ、楽しみに取っておいたのに!ばか!慰謝料としてグミを請求する!」
「ハイハイごめんって。ほら、口開けろ」
じゅわ。口に広がる酸っぱさと後からくる甘さ。美味しいけれど、お弁当を食べた後で貰おうと思っていたのに。しかも今のって、所謂あーんってやつじゃないか。二口も気付いたのか、ほんのり頬が赤くなっている。
二口をからかう余裕さえ無くなった私は、小さく「ありがと」と言うやいなやお弁当に意識を集中させた。



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