「荒船さん!」
室内に響くくらい大きな声で呼び掛ければ、帽子の鍔で少し隠れてはいるものの、眉間に皺を寄せこちらを睨めつけている荒船さんと目があった。機嫌が悪そうなのは一目瞭然で、勿論原因は私にあるはずだ。私の隣で歩いていた米屋くんが、「荒船さんめっちゃ怒ってんぞ」と耳打ちしてきたから、「あれは照れてるんだよ」と同じくこっそり教えてあげた。

「聞こえてんぞコラ、誰が照れてるって?」
「こんにちは荒船さん!非番なのに本部に顔出すなんて、流石荒船さんですね!そんな真面目さも大好きです!」
「なんで非番とか把握してんだよ…ストーカーの域入ってんぞ」
「大丈夫です!そう言われないように全隊のスケジュール把握してますから!」
「え、嘘でしょ」

米屋くんがドン引きした顔でこちらを見ている。荒船さんはというと、元々悪い人相を更に歪めて唇を突き出している。そこまで嫌な表情を見せながら去ることをせず、私と目を合わせてくれる。育ちがいいんだろうなぁと、何だか微笑ましくなっていたら「何ニヤニヤしてんだ」と舌打ちされた。

「荒船さんっていいとこのお坊っちゃまって感じしますよね」
「馬鹿お前、流石にそれはねーよ」
「米屋、あとで面貸しやがれ」
「あ、やべ〜俺会議あるの忘れてた、じゃあ荒船さん、また!」

米屋くんは明らかにしくったという顔をしながら、そそくさと居なくなってしまった。あの子は何も考えずに素直に気持ちを言ってしまう。だから怒られてばっかりなんだよ、と以前窘めたらお前ほどではねーよと取り合ってくれなかった。酷いなぁ、私は割と優等生なのに。

「おい」
「え、はい?」
「お前話聞いてなかっただろ、昼メシ食ったか?って聞いたんだ」
「まだです!もしかして一緒に行ってくれるんですか?荒船さんとならお腹一杯でもいつでもご一緒しますよ!行きましょう!」
「あーうっせぇ!俺が話すことなくなるだろ!」

話すこと?頭に疑問符を浮かべていると、荒船さんには珍しく目を合わせずに、小さく吐き捨てるように言った。

「奢ってやるって言ってんだ。…さっさと行くぞ」

いつもより少しだけ帽子を目深に被った荒船さんは、こちらを見ることなく早足で歩き始めてしまった。あ、頬っぺたがいつも赤い。

「照れてる荒船さん、可愛いですね」
「うるせぇ照れてねぇ」
「私が荒船さんのこと呼ぶ時、ちょっとだけ照れてますよね。あの顔見るの好きなんです」
「…もうこっち見んな」

ぼすん。突然暗くなった視界と頭に僅かな衝撃。荒船さんの帽子を被せられたことに気付いたのと、微かに荒船さんの匂いが鼻を掠めたのはほぼ同時だった。流石に私も恥ずかしくなって帽子で顔を隠したから、私の視界に入るのは荒船さんの黒い隊服だけ。その隊服が小刻みに揺れ、頭上から「照れてんな」という声が笑いに混じって聞こえてきた。



星墜様「かまって攻撃を回避しないのを知っているので」に提出



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