冬の体育はその日の気分で大分モチベーションが変わる。良い日は澄んだ空気を楽しみながら意欲的になる、なんなら半袖にだってなれ…やっぱりなれない。でもそのくらい元気なのだ。反対に悪い日は仮病を使うかどうか本気で悩むほどやる気が出ず、今日のように月一のアレに苦しむ日の体育は、本当にやりたくないのだ。校庭の隅っこに座って、皆がテニスに精を出している姿をぼんやりと眺める。今は試合形式の練習に移っていて、出番のない暇人達は空いているスペースで思い思いに暇を持て余している。かく言う私は喋る気力さえなくて、精一杯の話しかけるなオーラを出していた。じゃりじゃりとこちらに近付く足音が耳に入って眉に皺寄せながら前を見ると、鼻を赤くさせた二口と目が合った。
「苗字、顔般若みたいになってんぞ」
「…え、まじ?今なりふり構ってられないから 、般若顔は忘れて」
「調子悪いなら保健室行って来いよ、どうせ運動音痴で戦力になんねーんだから。おまえ」
「うん、でも動く気力もないからここで座ってる」
「…ふーん」
二口はそのまま黙ってコートへ向かっていった。恐らくこれから練習試合なのだろう。相変わらず口悪いなぁ二口、さらりと優しさを混ぜていることに気付いたのは最近だ。さっきまであんなにも人と話したくない一心だったのに、今は少し気持ちが軽くなっている。不思議だ。
遠くでピーッと笛の音が鳴った。音の鳴る方へ顔を向けると、どうやら二口の練習試合が始まったようだ。ラケットを持つ様に何となく違和感を覚えるなぁなんて思っていたら、球を空振りする瞬間を目撃してしまった。コートの周りで観覧していた男子達がゲラゲラと笑っている。バレー部ではレギュラーらしい二口も、道具を使った球技は苦手らしい。その後も何とも冴えないサーブを繰り出し、ネットに引っ掛け
、空振りを連発と、見事な妙技を披露していた。結果はストレート負けで、相手の男子はまだ笑いが止まらないようだ。
周りから散々いじられている二口は頬を真っ赤に染めながら悪態をついているようで、足は真っ直ぐ私の方へ向かっていた。お疲れ様、と声を掛けると「見てたのかよ」とそっぽを向いた。
「ナイス空振り〜」
「うるせ、これだからテニスは嫌いなんだよもー」
「スポーツ万能かと思ってた、可愛いとこあるじゃん」
「…だからうるせーって」
「体調悪かったけど二口の試合見てたらなんか元気出てきたよ、ありがと」
「もうほんと、黙ってお前」
「ほっぺたも鼻も真っ赤にしてる二口なんか怖くないもーん」
うー、だのあー、だのと呻きながらずるずるとしゃがみ込む二口に、隣座る?と声を掛けると黙って隣に移動してきた。今日の二口はやけに二口らしくない。ところで二口は何で私のところに来たんだろう。校庭の隅っこにわざわざ来るなんて物好きな奴だ。ていうか二口良い風避けになる、言うと怒られそうだから黙って利用させてもらおう。
はぁ、と白い息を吐く。ずっと寒空の下で動かずにいたせいで、手は氷のように冷たい。次の時間は何だっけ、建築学かな。あの寒い教室でまた凍えるのは辛いけど、一度休むと理解不能になっちゃう授業だから頑張って出ないといけない。早く暖房復活しろ、ボロ教室。
不意に、左手を引かれた。同時に温もりが伝わって来て、隣を見ると未だに頬を赤くさせた二口と目が合った。そんな照れた表情のままだんまりを決め込むものだから、こちらまで赤くなるでしょう、馬鹿二口。照れ隠しに「普段は暖かいの本当だったんだ」と言えば、「信じてなかったのかよ」とようやく緊張した顔をほぐして笑った。
「今日の二口くんは本当にらしくないですね」
「何だよそれ、俺はいつでも優しいだろ」
「テニス音痴」
「忘れろ」
「どうしよっかな〜」
「暖めて貰ってる感謝の気持ちが足りないんじゃねーの」
「いつでも優しい二口はこのくらいやってくれるんでしょ?」
「こいつ本当可愛くない」
「へへ」
近くのチャイムがゴンゴン鳴り響き、授業の終わりを告げる。それを合図としてか左手を握っていた二口の右手は離れていき、少しだけ温もりを取り戻した左手に冷たい風が吹き付けられた。体調が良くなった訳ではないし、むしろ寒さで悪くなった位ではある。心臓はやけにぎゅうぎゅう締め付けてくるし、何となく熱に浮かされたような気分だ。原因はきっと二口にあるんだろうけど、認めるのが怖くて、私は原因とやらから目を逸らした。



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