三限の数学は、切れてきた集中力とじりじり襲ってくる空腹感で、授業の内容が右から左へ通り抜けていきがちだ。目の前に座る国見くんも例外ではないようで、頭がぐらぐらと揺れている。
小さな危機が訪れていることを、彼は知らない。先生が順繰りに生徒を当てているが、あと少しで私の番が来る。つまり国見くんもこのままでは当たるのだ。
「…国見くん、」
小声で声を掛けるけれど目覚める気配はまるで無い。あ、私の後ろが当たった。どうしよう、椅子を蹴ってでも起こした方がいいのかな。
「じゃ、次の問題二つとも板書してもらおうかな。苗字、国見、前に出てきなさい」
あ、国見くん終了のお知らせ。先生の声で目覚めたらしい国見くんは、やべ、と小さな声で呟きながら立ち上がった。慌てて私もノートを持って黒板へ向かう。横目で国見くんのノートを盗み見たら、真っ白なページがそこにあった。うん、駄目そうだ。
チョークの擦れる音が一つだけ、教室内に響く。国見くんは教科書を片手に、ぼんやりとした顔で黒板を見つめている。そこには危機感なんてものは微塵も感じられないけど、動かない右手が理解していないことを物語っている。ようやく少し困った顔を見せた国見くんを、不謹慎にも可愛いなぁなんて思っていたら、目が合った。
「ねえ、苗字」
「18ページの問2だよ国見くん」
「うん、見せて」
ひょいと顔をこちらへ近付けて、私のノートを窺ってきた。その距離の近さに、思わず顔が火照った。国見くんからはほんのりと制汗剤の香りが漂っていて、レモンかなぁなんて考えてしまう。
ぱっと見て大体を把握したのか、すぐに国見くんは離れてしまった。ほっとした気持ちよりも寂しさの方が強いなんてことはない、はずだ。先生からは「国見、次はないからなー」なんて野次が飛んでいて、クラスの笑い声が飛び交っている。あぁもう、国見くんにとっては何でもないことなのに、変に意識してしまう自分の頭脳が恨めしい。
先に書き終わった私は席に戻った。後から席に戻ってきた国見くんが、「サンキュ」という言葉と共に笑顔を浮かべるものだから、そのあとの授業なんて全く耳に入らなかった。



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