東京に行くんだ、そう告げると貴大くんは滅多に見せない驚いた表情で、嘘デショ?と小さな声で聞いてきた。その悲しげな声を聞いて胸の奥がぎゅっと締め付けられるようだった。寂しがってくれないんじゃないかって、少しだけ不安だったけど、思った以上に懐いてくれていたらしい。
「うん、ぎりぎりまで言わなくてごめんね」
「名前ちゃんは、地元に残るって思ってたんだけどなァ」
まじかー、自嘲じみた笑顔はどう見ても作ったそれで、自分より何十センチも大きな身体は縮こまっていても、やはり視線は遙か上。
「貴大くん、本当おっきくなったねぇ」
「…オバサンっぽいよ、その言い方」
「えー酷い!でもお隣に引っ越してきた時、貴大くんこんなちっちゃかったんだよー」
こんな、と言いながら手をかざす。ご近所さんになってからかなりの年月を重ねてきたけれど、貴大くんとはずっと遊んでいた気がする。夜まで公園で遊んで、中学に入ってもお互いの家に遊びに行って、高校は部活が忙しいから遠慮してたけど、それでも貴大くんは「名前ちゃん、遊ぼ」って言ってくれた。
「まぁ、休みの間は実家に帰ってくるし」
「…うん」
「東京って言っても、新幹線乗れば二時間かからないんだよ!すごくない?」
「…うん、すぐに会いに行ける」
「お土産に東京の美味しいシュークリーム買ってくるから」
「…それで機嫌取れると思ってるから名前ちゃんって可愛いよネ」
最後の言葉にツボが入ったのか、貴大くんはプッと吹き出したまま暫く笑いが止まらないようだった。酷くない?これでも年長者なんですけど。一個しか変わらないけどさ。
「ね、名前ちゃん」
「なに?」
「一年待っててくんない?そしたら俺、そっちに行くから」
「…え、東京来るってこと?」
「うん、名前ちゃんがいない生活はツマンナイし、それに」
貴大くんは冷たくなった私の右手を両手で覆うと、緩く微笑んでそれにさ、と続けた。
「高校卒業したら名前ちゃんに好きって伝える予定だし」
「え、」
「俺のハート食べちゃった責任とってよネ」
なんちゃって、なんて言いながら泣きそうな顔で微笑まれて、 ねぇ、それはちょっと卑怯なんじゃないの貴大くん。 今生の別れじゃあるまいし。名前ちゃんの手、冷たいねって息を吐きかける貴大くんの顔を見つめると、どうしたの?といった表情を向けられた。
「じゃあ、一年後に待ってるね」
「ウン、彼氏作んないでよ」
「大丈夫だよ、来年貴大くんに私も好きだよって返す予定だから」
貴大くんは目をしぱしぱ瞬かせると、それは安心だわ、と笑った。




Mrs.Tokyo様「私の心臓、食べたのだぁれ?」提出



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