醒めない夢

 

「……いち、太一、」

 ふと耳に入ってくる、声。
 低く、けれどとても柔らかなその音色に太一はゆさゆさと肩を揺らされるその振動と共に夢の淵から呼び覚まされ、んんぅ……。と堪らず唸り声を出した。
 眉間に皺を寄せたままゆるりと目を開けた太一の瞳に映るのはもう見慣れた亮の、けれどとびきり愛しい穏やかな笑みで、太一もふっと小さく笑みを漏らし、……もう朝? と呟く。


「おはよう。もうお昼前だよ。もうちょっと寝顔見てたいけど、もうそろそろ起きてご飯くらい食べなきゃ」
「んぅ……おは、よ……」
「まだ眠たい?」
「……ん」
「昨日無理させ過ぎちゃった?……ごめんね」
「んや、ちが、う……ただ、」
「うん?」
「りょうのにおい、おちつくから、」
「え?」
「おまえのそばにいると、どきどきして、でもふわふわあったかくて、うれしくて、なんか、ねむくなんの……」

 未だ片足を夢の泉に突っ込んだまま呂律の回っていない声で呟く太一がベッドヘッドに腰かけたままの亮の腰に腕を回し、すりすりと頬擦りをしてくる。
 その言葉や寝ぼけた姿が堪らなく可愛くて、亮は思わず掌で顔を覆った。

「あーもう……寝てても起きてても何してても可愛い。可愛すぎてどうしよう」

 なんてぼそっと呟いたかと思うと、ズルズル、と腰を下げベッドの中に潜り込み太一を抱き締めた亮が、

「柔軟剤もシャンプーもボディソープも全部同じの使ってるのに、俺も太一の匂い分かるよ。俺の大好きな甘い匂い」

 なんて言ってはうりうりと頬と頬をくっつけてくる。
 その柔い刺激に太一がんふっと声を漏らしては抱き締め返し、りょうにぜんぶつつまれてるきぶん。だなんて幸せそうな笑みを浮かべた。


「お腹すいた?」
「んー……ん、でも、」
「もうちょっとこうしてたい?」
「ん」
「ははっ、めちゃくちゃ素直」
「……おまえがおれをそうさせたんだろ」
「っ、え、」
「……ふはっ、なんちゅう顔しとんだ」
「……待って、なんか今の凄いキた……」
「あ?」
「太一ってほんと、もうほんとそういうとこあるよね」
「なにが? てかお前なにチンコでっかくしてんの」
「いやこれは不可抗力でしょどう考えても」
「だからなにが? って、わ、ちょ、尻に擦り付け、んな、ぁっ、」
「……ご飯の前に太一食べる」
「ふはっ、んだそれ。……でもまぁ、ん。いいぞ。その代わり残さず食えよな」
「当たり前じゃん。頭のてっぺんから足の爪先まで残さず食べるよ」
「わはっ! ……あーもー、ほんとばかだよなぁ俺ら」
「えー?」
「……幸せすぎて、ばかになる」
「……じゃあこれからも、もっともっと、ばかになろ」
「ふっ、……ん。そーな」


 カーテンの隙間から燦々と降り注ぐ、美しい陽射し。

 その光の筋に照らされたまま二人は小さな笑い声を漏らしじゃれ合い、幸せな休日の始まりをただひたすらに満喫したのだった。



【 おはようと笑い合える幸福 】










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -