「あ、担任から電話きてたみてぇ。なんだろ」

 そうポツリと太一が呟いたと同時に、亮も思い出したのか、

「あ、そういえば俺もきてた」

 と太一の手元にあるガラケーを覗き込む。
 斎藤さんから服やら何やらを持ってきてもらったあと仲良く風呂に入り、それからデリバリーを頼んで昼食を済ませた二人は、ブランケットにくるまり何もないだだっ広い部屋の床に寝転びながら、ゆったりと過ごしていた。

 部屋着のハーフパンツから伸びる亮のひんやりとした素肌が気持ち良いのか、ブランケットの中で素足をすりすりと絡ませながらも平然と携帯の通知やらをチェックしている太一に亮がンンッと悶えていれば、プルルッと電話が鳴り、太一は龍之介からだ。なんて言いながらピッと通話ボタンを押した。


「もしも、」
『あっ、出た!! 亮も居るよな!?』
「わ、うるせ、」
『うるせぇんじゃねぇんだわ!! お前ら卒業証書忘れていっただろ!! 担任からお前らの卒業証書が校庭の隅に落ちてたからってなぜか俺が持って帰らされたんだけど!?』
「あ、やべ。確かに桜の木の下に置きっぱにしてたかも。ごめん。ありがとな」
『フツー忘れるぅ!? つか亮の花とかも持って帰ってきてんだかんね俺!』
「ごめんて」
『大体お前らいつの間にそういう関係になってたの!? しかもそれ知らなかったの俺だけだったみたいだし! 明日俺ん家に卒業証書とか諸々取りに来いよなお前ら!! その時に根掘り葉掘り聞くし!』
「は? やだよ。取りには行くけど」
『なんでだよ!!』

 そう電話越しにずっとキャンキャン吠えている龍之介の声を煩わしそうにしたあと、じゃあ明日行くわ。とだけ言った太一がピッとボタンを押す。
 そのあと、あいつまじうるせー。なんて笑い、隣で二人の電話のやり取りを聞いていた亮もくすくすと笑っては、面倒くさいけど明日龍之介の家に寄ろっか。と太一の頬にちゅっとキスをした。

「ん……ふはっ、くすぐってぇ」
「えー、我慢して」
「んふっ、ふふっ、」

 こめかみや鼻筋、それから目尻にキスの雨を降らせてくる亮に太一が擽ったそうに身を捩りつつも、楽しげな声を出す。
 亮がのそりと上体を起こしては仰向けに寝転がっている太一の顔に影を落とし、太一の美しい薄紅色の唇にそっと己の唇を重ね、それにうっとりと目を閉じた太一も亮の首に腕を回しては、ふっと微笑んだ。

 それから二人は手を繋いだり足を絡めたり、会えなかった分、触れなかった今までの分を取り返すよう微睡みに揺れるような幸福に身を任せ続けた。




 ◇◆◇◆◇◆



 チュンチュン、と耳に響く鳥の声。
 その声をぼうやりと聞きながら目を開けた太一はカーテンも何もない窓から射し込む朝日がきらりきらりと自身を照らしている事に気付き、あれ、と見慣れぬ白い天井を見つめた。

 それから、やけに体が痛い。と身動いだその瞬間隣に亮の顔があって、一気に眠気が飛びヒュッと息を飲んだ太一は思わずズサッと体を後ろへと反らした。
 冷たい床の感触がひたひたと肌を冷やし、けれどもバクバクと鳴る心臓の音に顔を赤くした太一は、そ、そっか、俺、昨日亮と……。と口を掌で覆いながら、眠っている亮の顔をじっと見た。

 美しく長い睫毛に、凛々しい眉。
 高くすっと通った鼻筋に、艶々した唇。

 文句無しに美形と言い切ってしまえる甘いマスクがすぅすぅと寝息を立てているその神々しさにうっと太一が眩しげに目を細め、けれどこの誰もが欲しいと思うだろう男はもう自分だけのものなのだと思えば嬉しくて、そっと亮に近付いた。
 ぴたりと肌を合わせ、それからすりすりと頬を亮の腕に擦り寄せた太一が香る亮の匂いにふふっと笑みを漏らしたその時。

 ごろんと亮が太一の方を向いたかと思うと頬を寄せている腕とは反対の腕が伸びてきて、覆い被さるようギュッと抱きすくめられてしまった。


「わっ、ぷ、」
「……何今の……。寝起きからいっそ心臓に悪すぎ……」

 亮の胸筋に鼻を潰され間抜けな声を出す太一を他所に、本当に甘えたすぎない? 可愛すぎて俺の心臓おかしくなる……。なんてガサガサの声で呟いた亮がぎゅむぎゅむと太一を抱き潰し、深い溜め息を吐く。
 そんな亮の背に腕を回しては、何言ってんだばか。と太一が満たされる幸せに笑い、その笑う心地好い振動が密着した体から伝わったのか、小さく亮がずびっと鼻を啜った音がした。

「……え、りょ、亮?」
「……ぐすっ、……ん? なに?」
「いや、なんで泣いてんの?」

 穏やかに、しかしどう聞いても涙声で聞いてくる亮に困惑したまま太一が胸元から顔を上げれば、綺麗な琥珀色の瞳をきらりと揺らめかせながら、

「……目が覚めて朝一番に見る景色に太一が居て、こうして俺の腕のなかに居てくれてるって思うと、なんか……めちゃくちゃ嬉しくて……えへへ、情けないね、ごめん」

 あの時、朝目が覚めて太一が居なかった事が思ったよりも辛かったみたい。だなんて小さく呟いた亮が、鼻の頭を少しだけ赤くしながらずびっとまたしても鼻を啜る。
 焦げ茶色の睫毛に乗る涙の粒がキラキラ輝いていて、その美しさと亮の溢した言葉に息を飲んだ太一は、慌てて首に回していた腕を離し亮の頬に走る涙を拭った。


「……ご、ごめん。俺、あの時お前の気持ち全然考えられてなかった……」
「太一が謝る事なんて何一つないよ。俺の方こそごめんね。悲しい顔させちゃったね」

 そう言いながら太一の指にすりっと目尻を寄せたあと、きゅっと指を握ってきた亮がちゅっと指先にキスをしては、穏やかに笑う。

「大好きだよ、太一。愛してる」

 その優しく囁かれる声も、真っ直ぐぶつけられる言葉も、見つめてくる瞳も溶けてしまいそうなほど甘く、太一は目を瞬かせたあと、

「俺も、愛してる」

 と囁き、惜しみ無く愛をくれる亮に同じだけの愛を返せていけますように。なんて穏やかに笑った。




 それから二人はまたしばらく愛に微睡んでいたが、

「ずっとこうしてたいけど、そろそろ起きよっか。体痛すぎる……」

 なんてぼそりと呟いた亮が、今日とりあえずベッドだけは絶対買おう? と上体を起こし、バキバキッと凝り固まった骨をほぐすよう伸びをした。
 それに太一も起き上がって、だな。と真似るよう伸びをし、それから二人は顔を見合わせ触れるだけのキスをしてから、とりあえず風呂入って出掛ける準備するぞ! と立ち上がったのだった。






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