「ん、う……」

 顔に当たる強い光に太一は小さな声をあげ、もぞもぞと体を動かした。
 微睡むままに目を開けると大きな窓に掛かっている高級そうなカーテンの隙間から夕陽が線のように射し込んでいるのが見え、段々と覚醒してきた頭がここは亮の家だったと思い出させ、はっと起き上がった太一は部屋をキョロキョロと見回した。

 しん、と静まり返った部屋。

 亮の姿は、どこにもない。

 その事に、学校へ行ってまだ帰ってきていないのか、或いは今から塾なのか知らぬが、せめてどこかに行く時は起こしてくれれば良かったのに。だなんて家に上がり込み風呂を借りただけでなく図々しく寝こけていた事を棚に上げて心のなかで少しだけ亮を非難した太一。
 それでもじわじわと胸を締め付けるこの息苦しさが、太一は嫌いだった。

 居る筈の人が、居ない虚無感。

 そんな寂しさがじわじわと体を纏い、それでも冷静になれと、いや、寂しいってなんだ。とかぶりを振った太一は、大体、母が死んでから今までずっと一人だったじゃないか。誰かに待たれる事も誰かを待つことも、もう一生ないのだから俺がそう想うことすらお門違いにも程がある。と心のなかで呟き、しかしそんな思考とは裏腹にハッハッと浅くなっていく呼吸に堪らずキュッと胸元を握った。

 苦しい。

 そうゼェゼェと呼吸をしながら必死に耐えていれば、ガチャリ! と些か乱暴に扉が開く音がして、太一はいつの間にか蒼白になってしまっていた顔をあげ扉の方を見た。


 そこにいたのは慌てて帰ってきた様子の亮で、

「わ、やっぱり起きてた! 帰ってくるの遅くなってごめんね」

 なんて情けなく言いながら部屋に入ってきたが太一の顔色を見るなり表情を強張らせ、ベッドへと駆け寄った。

「太一、どうしたの? 気分悪いの?」
「……、ちが、なんでもない、へいきだから」

 亮の顔を見た途端、息苦しさがふっと和らいだ気がして、太一がへにゃりと眉を下げながら笑う。
 その顔と、深呼吸しながらも段々と顔色が良くなってきた太一を見つめては、本当に調子良くなってきたみたい。と一応胸を撫で下ろしつつ、でも、本当に大丈夫? と亮は心配げにベッドの脇にしゃがみこんで太一を見つめた。

 ちょこんと座りながら見上げてくる普段あまり見ない亮の上目遣いに、うっ! な、なんだこの可愛さは……! だなんて現金にもほどがあると思いつつ太一は心臓をバクバクと言わせながら、ほ、ほんとに大丈夫だから。なんでもねぇから。と焦りつつ、

「どこ行ってたんだ?」

 なんて質問を投げ掛けた。


「あー……えっと、母さんの所」

 少しの沈黙のあと、何故か言い淀みながらそうへらりと笑った亮。
 その顔がいつも家族の話をする時の悲しそうな、諦めているような笑顔ではなくどことなく優しい気がして、太一はそんな亮の些細な変化にぴくっと身を揺らした。
 まるで憑き物が落ちたかのようにどこか照れ臭そうに、それでも嬉しそうにしている亮の様子に、きっと両親と何か上手くいきそうなきっかけがあったのだろうなと思いつつも、何の話をしていたかなんて深く聞く権利はなくて、

「……そっか」

 と柔らかく微笑み返す。
 それでも、亮にとって今日の記憶が友人が暴行を受けていたのを目撃した日、よりも、両親との少しでも温かな記憶に塗り替えられてくれていれば良い。なんて目を伏せ笑った太一はしかし、ピリッと唇が痛んだ感覚に眉間に皺を寄せた。


「痛い? ガーゼ変えようね」

 そんな太一の様子を目敏く見ていた亮はやはり心配そうな顔をしたままベッドの縁に座り、その脇の小さな机の上に置いていたままだった救急箱に手を伸ばす。
 それに、いや、自分で出来るから。と慌てて太一も救急箱に手を伸ばし、そのせいで二人の指先がトン、と触れ合った。


「っ、あ、ご、ごめん!」

 謝った太一が慌てて手を引っ込めたが、その時初めて会った日のようにビリッと身体に電流めいたものが流れ、そしてそれをお互い感じ取ったのか二人して顔を赤くしてしまった。


 たった少し指先が触れただけなのにドキドキと馬鹿みたいに心臓を高鳴らせ、そんな自分を叱咤しつつ太一は震えてしまいそうになる手で救急箱を開けようとしたが、

「……俺の方こそごめん。でもやっぱり俺に手当てさせて?」

 とぽつり呟いた亮が救急箱を開け徐に準備をし始めたので、太一は、じゃ、じゃあお願いする……。と赤い顔のまま、待った。


「ガーゼ、剥がすね」
「ん。……っ、」
「痛いよね、ごめん」
「だ、いじょうぶ」
「血が固まっちゃってる。消毒液で拭くから染みると思うけど、我慢してね」
「ん」
「それとさ太一、当分この家に住まない? ほら、もうあいつが居る所になんて戻りたくないだろうし、俺の両親もオッケーだって言ってくれてるし、せめて高校の間だけでもさ、この家から一緒に学校行こうよ」

 そうなんて事ないような口ぶりで話す亮はガーゼに消毒液を染み込ませていて、しかしその言葉を聞き流すにはあまりに重大だと太一は目を見開き、何を言っているのだ。と亮を見つめた。

「はぁ!? な、なに、言ってんだよお前! そんなの無理だろ!」
「えっ、なんで?」
「え、な、なんでって、」
「じゃあ太一はあの糞の掃き溜めたいな所に戻りたいの?」
「も、戻りたいわけじゃ、ていうか糞って……口悪すぎだろ……」
「そうかなぁ? それに本当にちゃんと俺の両親には了承貰ってるから俺の家に迷惑掛けるからとかっていう遠慮ならまじで要らないし」
「で、でも……、」

「……だめ?」

 言い淀む太一を負かそうとゴリゴリに押し、しかし最後はそっと伺うよう太一の顔を覗き込んでくる亮。
 その綺麗な琥珀めいた瞳に捉えられ、さっきからどこか夢心地のままふわふわとし出してきてしまった太一は頷きかけたが、それでも、いやいやいや、待て俺の理性。となんとか必死に食い止めて、

「ちょ、ごめん、……なんかもう、今日いっぱいいっぱいで、考えられねぇ……」

 と呟く。
 そうすれば、あっ、そうだよね、ごめん。急すぎたよね。と反省しつつ、……でも今日はとりあえず泊まっていってよ。と笑いながら、触るね。と一言前置きし消毒液に浸したガーゼで口元を拭っていく、亮。
 ピリッとした痛みのあとじんじんとした痛みに変わり、眉間に皺を寄せたままそれでも大人しくされるがままの太一は、しかしそっと壊れ物を扱うよう慎重に動く亮の指が自身の唇を優しく掠めていく感触に、気が付けばとろんと瞳を蕩けさせていた。


 亮の匂いに包まれた部屋で、亮に優しく触られて、ここに居てていいんだよ。と微笑まれて。

 そんな多幸感にまるで自分が亮の大切な人になったような気分になってしまった太一は、とんだ自惚れだ。と自制心を働かそうとしてみたが、未だ発情期が完全に終わっていない事が拍車を掛けるよう浅ましく熱を持ち始めた体に、堪らず熱い息を吐いてしまった。


「んっ、ぁ、」

 思わず漏れた吐息。
 それに、びくっと亮が体を跳ねさせたのが分かる。
 それが恥ずかしくて恥ずかしくて、カァッと顔を赤くし、も、もういいから、あとは自分で出来るから。と太一は亮の手からガーゼを奪った。


 気付かれた。

 そう顔を赤くしながら、亮に触れてほしいと、熱さが欲しいとひくつく浅ましい身体に太一はぐっと唇を噛みしめ、……まじで消えてぇ。と俯く。
 さっきあんな目に合ったのにそれでもこんな馬鹿みたいに亮が欲しくなっている自分が本当にセックスする事しか存在価値がない劣等に思えて、ぎゅっと自分の体を隠すよう毛布のなかで膝を抱え、

「……あ、あはは、ごめん、……俺の体ほんとみっともなくて気持ち悪いだろ、ごめんな。淳の言う通りなんだよ、俺、ほんとに……」

 なんて、情けなくて惨めで泣きそうになりながらも、それでも太一はへらりと笑った。


 オメガだというだけで、迫害されてきた人生だった。
 気持ち悪いと、みっともないと言われ続け、汚ならしいと蔑まれ、それでもこびりつくような視線に耐えてきた人生だった。

 それが太一の"普通"だった。

 だからもう、そう言われる事もそう思われることも仕方がないと諦めていたし、何も感じず、何も思わず、苦しくなったら誤魔化すよう笑えばいい。そう生きてきた。

 けれど、龍之介達と友達になって、亮に出会って、太一の世界は変わった。
 種が地に落ち、芽が芽吹き、そしてやがて花が咲くように、愛しさや綺麗なもので溢れていった世界。
 笑って、悩んで、まるで普通の、どこにでもいる高校生みたいに素のままで居られる自分を、やっと取り戻した。

 それなのに結局こうして好きなやつに惨めな姿ばかりを晒す自分が情けなくて情けなくて、亮の瞳がどう変わるのか怖くて、もうこれ以上俺の醜さを見ないで欲しい。これ以上、失望されたくない。と俯いた太一は、

「っ、ごめん、やっぱ俺もう行くわ、その、色々ありがとな、ごめん」

 と呟きベッドから抜け出そうとしたが、横に座っていた亮がその腕をがしりと掴んだ。


 途端、ゾクゾクゾクッ。と得も言えぬ刺激が身体中に走り、んあっ、と声を漏らした太一は、ずくんと重くなる腰にもう本当に消えたい。と涙を瞳に滲ませたまま、堪らず、離せって! と声を張り上げ怒鳴りながら亮を見た。

 けれどそこに在るのはいつもの、優しさを散りばめた美しい瞳ではなくて、燃えるような、それでいてひどく悲しさをたたえた、怒りにも似た瞳だった。


「……んで、なんでそんな事言うんだよ」

 ぽつり、呟いた亮。


「……りょ、」
「気持ち悪いとか、みっともないとか、そんな事言わないで」

 そう溢したかと思うと、ぽろりと涙を落とした亮が苦しげに表情を歪ませる。
 その初めて見た泣き顔に、太一は目を見開き呆けてしまった。


「……そんな事ないよ。太一は気持ち悪くなんかない。ちっともみっともなくなんかない。お願いだから、そんな風に自分を卑下しないで……そんな風に、笑わないでよ……」

 ぐすぐす、と鼻を啜り鼻の頭も目も真っ赤にした亮が、それでもじっと太一を見つめている。
 その亮の瞳が美しくきらきらと煌めいていて、太一はヒュッと息を飲みながら、な、なに言って、と口ごもった。

 触れられている掌が、じくじくと熱い。
 それでもその掌をはねのけることも、瞳を逸らす事も出来ずに、太一は亮を見つめた。


「……なんで、お前が泣くんだよ……」
「っ、ごめん、太一が泣かないから、俺も泣かないようにって思ってたけど、……ごめん……無理だった……。……それなのに、俺いま、太一を抱き締めて、触って、めちゃくちゃにしたいって、そう、一瞬だけでも思っちゃったんだ」

 そう苦しげに溢す亮に、……え、亮が、俺の事、と思ってもみなかった言葉を言われドクンッと胸を高鳴らせた太一。
 途端ドキドキと胸が鳴り、お尻の奧がキュンと疼きじわりと濡れていく感触がしたが、

「……太一がそう考える原因もそう自分を卑下しちゃう原因も何もかも全部、俺みたいなアルファや心ないベータの奴らのせいなのに……本当に、情けない……ごめん…」

 なんてまたしても泣きながら謝ってきた亮に、

「ちが、亮は何も悪くねぇから! 亮がそう思っちまったのは俺のフェロモンのせいで、だから、亮は何も悪くない、悪いのは俺だから……。俺が、フェロモン撒き散らすのが悪いんだ。亮がそうなるのも、淳がおかしくなったのも、ぜんぶ、ぜんぶ俺が悪いんだよ」

 お前のせいじゃない。と首を振り、俺がオメガだから。オメガなんかに、ましてや魂の番いなんかに生まれたからお前までおかしくさせてしまいそうになったんだ。と目を伏せ、太一が悲しげに笑う。
 それでも、本能で抗えないせいだとしても、少しでも亮にそう思ってもらった事がほんの少し嬉しくて、……ははっ、ほんとにまじでどうしようもねぇクズだな俺。と太一がぐっと拳を握ったその時。


 ぐいっと亮に引き寄せられ、気付けば太一はぽすんと亮の腕の中にすっぽりと収まっていた。



「太一のせいじゃない。絶対、そんなことない。太一は、何も悪くない」

 儚く切なくて、苦しくて悲しい太一の笑顔をまざまざと見せつけられた亮は堪らずぼたぼたと涙を落としながら、揺らぐ理性を必死に繋ぎ止め、もう一度、太一のせいなんかじゃない。と力強く繰り返す。

 そんな亮の腕のなか、ぶわりと毛穴が開きそうなほどの痺れにハァッ、と熱い吐息を漏らした太一。

 耳元でも、亮の熱い吐息が聞こえる。


 それでも亮は抱き締める事を止めず、

「……太一は、俺が出会ってきた人のなかで、一番綺麗だ」

 と言ってはまたしても抱き締めてきたので、太一はその暖かな温度に、言葉に、体と心がぐちゃぐちゃになったまま、喉を鳴らした。


 ……苦しい。
 辛い。
 嬉しい。
 恋しい。
 側に居られるだけでいい。
 純粋に、好きなんだ。
 ……嘘だ。
 俺は綺麗なんかじゃない。
 もっと触れて。
 俺がぐちゃぐゃになるまで犯して、俺の全部、お前のものにして欲しいんだ。


 そうごちゃごちゃと絡まる感情が、身体中でとぐろを巻き喉を狭めていく。
 呼吸は荒く、どうしようもない体の熱さをもて余したまま、太一ははくはくと口を開けて、亮の背中に腕を回し抱き締め返していた。


「……りょ、う」
「……うん」
「りょ……う、」
「うん」

「りょう、おれ、おれ、……ほんとは、オメガなんかに、うまれたくなかっ、た」

 ぽろり。

 零れ落ちた本音と共に、母が死んでから今まで、ひたすらに泣くものかと踏ん張っていたモノが崩壊し太一の目から涙として流れていく。

 ひりつく喉は上手に酸素を取り込んでくれず、ヒュッヒュと上がる息。
 それでもぼたぼたと歯止めがきかなくなった涙が亮の肩口を濡らしていき、止まらない。と泣きじゃくる太一の背を亮はきつく抱き締めたまま、

「……太一の今までの苦しさを分かってあげられなくてごめん。オメガだからって沢山傷ついてきたよね。そんな我慢も辛さも、何も分かってあげられなくてごめん。……何も出来なくて、ごめん。おれが、太一の痛みも苦しさも全部、肩代わりできたら良いのに……」

 と亮も鼻を啜り泣きながら呟くので、その言葉に太一は、……ああ、もう無理だ。と、

「ふ、う、ぐ……うぁ、」

 なんて醜く嗚咽を溢し、……オメガなんかに生まれたくなかった。でも、それでも、俺がオメガじゃなかったら、お前と出会えてすら居なかったかもしれない。と、こんな自分の為に泣いてくれる亮と出会えた奇跡に、亮の背をきつくきつく抱き締めた。



 この苦しさも憤りも、それでもこうして心から愛しいと思える人と出会えた喜びも、恋しいと鳴く純粋さも、みっともなく欲する愛欲も、全て全て、これが運命というならば、俺は耐えられそうもない。と、

「くる、しい。りょう、くるしい……ふっ、う、ひっ、もうやだ、もうやだよぉぉ、りょう、」

 なんてみっともなく子どものように泣きじゃくるしか術がなく、こんな事をされれば困るしかないと分かっていながら、それでもすがる事しか太一には出来なかった。
 そんな太一の背を亮はずっと歯を食い縛り泣きながら、それでもきつくきつく、抱き締めていた。




 ◇◆◇◆◇◆



 二人がどうしようもないやるせなさに泣き暮れてから、数時間後。

 体がきしりと痛む感覚と泣きすぎてガンガンと痛む頭のまま、いつの間にか泣きつかれ眠ってしまっていたらしい太一がもぞりと身動ぎ、上体を起こす。
 亮がベッドに寝かせてくれたのだろうかきちんと毛布が掛けられていて、亮は、とキョロキョロと見回した太一は遠くのソファの方で座った体勢のまま寝ている亮を見つけた。

 そろり。と床に足を落とし、起こさぬようゆっくりと近付いていけば腕を組んでいる亮のその腕に沢山の爪の痕や噛み痕が付いているのに気付いてしまい、太一は、……ほんと、ばかだなぁ。だなんてぽろりとまたしても涙を落としてしまった。

 きっと、自分のフェロモンに負け暴走してしまわぬように耐えてくれたのだろう。
 そんな事をしなくても、泣いている俺を置いて部屋から出るなり、そうせずともそのあとなら眠った俺を残して部屋を出ていけば良かったのに。だなんて酷い事を思いながら、それでもこうしてずっと側に居てくれるお前だから俺は好きになったんだ。と太一は涙を拭い微笑み、そっと亮の側にしゃがみこんだ。


 さらりと流れる茶髪は艶やかで、長い睫毛が目の下に影を作っている。
 すらっとした鼻に、形の良い唇。

 どれをとって見ても綺麗で、その美しい亮の寝顔を眺めていた太一は、そっとソファに手をついて亮の顔へと自分の顔を近付けた。

 壊れてしまったかのように鼓動はうるさく鳴り響き、ふるふると震える体。
 それでも、ふっと顔に亮の吐息が触れたその瞬間、太一は顔を離してそのままずるりと座り込んだ。


 ……あーあ。最後だっていうのに、寝込み一つ襲えない俺は意気地無しだ。


 なんて思いながらも、亮を自分のエゴで汚すわけにはいかない。と目元を弛めた太一。
 それから小さく、

「……ずっと好きだよ、亮」

 と呟き、音を立てぬよう立ち上がってはひっそりとベッドを整え、慎重に部屋の扉を開けたあとゆっくりと閉めてから一目散に玄関へと向かい、逃げ出した。
 玄関の扉を出れば冬の寒さが肌を刺し、その寒さにぶるりと身震いした太一はそれでも振り返ることなく歩き出す。

 そうして完全に家から出て門を閉めたあと、そこでようやく一度深呼吸をした太一は空を仰いだ。

 しんしんと静かに寝静まる夜。
 はぁ。と息を吐いた太一の吐息だけが、ゆぅらりと白く揺蕩っていく。

 そんな寒空の下夜空をぼうやりと見上げ続けている太一を飲み込もうとじわじわ闇は暗さを広げ、月はそっと悲しげに沈んでいくばかりだった。





 to be continued……






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