その後 1※

 

「……あっ、やぁっ、シュナさ、ぬかないでっ」

 甘ったるい匂いが充満し、荒い息だけが響く小屋。

 ようやく根元の膨らみが鎮まり、ずるる……。とノアの肉壁を擦りながらシュナが腰を引いたが、しかしノアはベッドの上にくたりと倒れ込みながらもひんひんと泣き言を溢しては、シュナの腰に足を絡め、いやいやと頭を振り乱していた。


 ノアのふわふわとした金色の髪の毛は今や汗で濡れ湿り、枕に美しく散らかっている。
 全身汗に濡れ、それでも肌を淡く桃色に染めながらハァハァと荒く息を吐いているノアの姿は耽美なのにどこか可憐で、シュナは額に張り付く髪の毛をそっと撫でては笑った。

「でも、お腹空いただろ。机から持ってくるだけだから」
「やっ、さびしいです、おねがいシュナさん、ぬかないで」


 ──ノアのヒートが始まってから、もう三日目。

 それでも尚収まらぬ衝動に快楽の涙を流し続け膨らんだノアの瞳は腫れぼったく、濡れ光っている。
 それが童顔な顔を更に幼く見せ、いけない事をしていると錯覚しそうになりながらも、シュナは真っ赤に染まる林檎のような頬に唇を寄せた。

「んっ」
「……掴まれ」
「っ、はい」

 ノアの背中に手を這わせ上体を持ち上げれば、嬉しげに微笑んではしっかりと首に腕を回して足をシュナの腰に絡ませ、しがみついてくるノア。
 その動きに未だ繋がった中がぐちゅんと擦れ、ノアが背中を反らしてはヒクンと身を震わし、シュナは蠢く肉壁の気持ち良さに息を飲んだ。

「ひあっ、」
「っく、」

 ノアの顎先があがり、艶かしい声が小屋に落ちてゆく。
 それと同時にシュナの眉間にも皺が寄り、ノアのヒートに当てられているため呆気なくまたしても勃ちあがった自身に、ハッと荒い息を吐いた。

「あ、ん……」
「……ノア、とりあえず立つぞ」
「っ、ん、」

 どんどんと体内で膨らんでいくシュナの陰茎の感覚に恍惚とした表情を見せひくひくと震えるノアに、シュナがそっと囁く。
 辺りは桃の芳醇な香りで満ち溢れ、コクンと小さく頷いたのを確認したシュナはグルグルと喉の奥を鳴らしながらも、ノアを抱きかかえ立ち上がった。

「あぁっ!!」
「……っ、大丈夫か?」

 ずぷん、と自身の奥深くまでシュナの陰茎が埋まるその刺激に、ノアが甲高い声を散らす。
 まるで悲鳴のような声が辺りを裂き、腹を凶悪なまでに怒張したシュナの陰茎が満たしているその強すぎる刺激にノアはガクガクと身を震わせシュナに強くしがみつきながら、過ぎる快感に涙をポロポロと溢してはシュナの肩に歯を立てた。

 ガリッと歯を立てられ、ビリビリと走る皮膚の痛み。

 それにシュナが小さく呻きながらもよしよしとノアの背を撫で、その小さな刺激ですら今のノアにとっては強い快楽でしかなく、ひんひんと泣いたノアは荒い息を吐きながらシュナの後ろ髪をぐしゃぐしゃとき乱した。

「はぁっ……ん、すご、おくっ、までっ……ぁ、」
「……一度降ろすか?」
「やっ、やぁっ、きもち、い、ふかいの、きもちいですっ」
「……俺のが奥まで入ってるもんな」
「ひぅっ、……は、いっ、すき、おくまで、シュナさんので、いっぱいになるの、すきっ、すきっ」
「……ん、俺も気持ち良いよ、ノア」
「ハッ、あっ、……うご、うごいてシュナさんっ」
「……しっかり掴まってろ」

 何か食べるものを。と抱き上げたというのに、すっかりその事を忘れたシュナがノアをしっかりと抱き締めたまま、腰を下から突き出す。
 その度にノアの体はきゅうぅと丸まり、ぱちゅんぱちゅんと弱く、しかし規則正しいシュナの律動にされるがまま快楽に浸った。

「あっあっあっ、は、あぁっ」

 シュナにしがみつき、突き上げられる度に喘ぐしか術がないノアの口の端から、銀色の糸が垂れ落ちてゆく。
 快感に身悶え腹の奥の奥まで満たされる刺激に虚ろな目をしたノアは淫らで美しく、艶かしくて。
 それにあてられながら、ノアの体をきつく抱きすくめ、腰を深く突き刺すシュナ。
 その度に甘い嬌声が上がり、小屋のなかはノアの甘ったるい香りに包まれくらくらと眩暈がするほどで、ベッドの上に散乱している巣作りとしてノアがかき集めた自身の服をちらりと見つめたシュナは、満足げにゴロゴロと喉の奥を鳴らした。


 愛らしく純粋で、淫らに美しく、そして自分だけをひたすらに欲する、永遠の契りを結んだ番い。
 たった一人だけの、運命の番い。

 それは身を突き破らんばかりの幸福さにシュナを浸すだけで。
 その胸に込み上げる愛しさにノアを更に強く抱き締め、世界中の誰よりも自分は幸運だろう。とノアと共に人生を歩める素晴らしさにシュナはらしくなく神に感謝しながら、己の全てを受け入れて欲しい。とノアの小柄な体を近くのテーブルに押し倒した。


「あんっ! あっ!」

 突然ギシッと軋むテーブルの上に乗せられ、喘ぎ声を溢しながらも驚きに目を見開いたノアだったが、固い木の感触が背中に当たる事すらも気にしないよう、すぐさま離れないでと言わんばかりにシュナの首に腕を回した。

 ガタガタッと鳴るテーブルから、ころんと一つ転がり落ちるミカン。

 それが足元に転がるのを気にせず、机の上の邪魔になりそうな物を雑にどかしながらも、シュナがノアの体を激しく揺さぶる。
 その度に机がギシギシと鳴り、シュナが深く埋まったノアの蕾からは散々出された精液とノアの愛液が滴り、床にポタポタと糸を引きながら落ちてゆく。
 それがとても卑猥で艶かしく、シュナは更に興奮したのか、パンパンと激しく肌がぶつかる音を響かせ続けた。


「ひっ、あっ、はぁっ、ああっ!」
「くっ、ノア、ノアッ……」
「あっあっあっ、シュナさ、あっ」

 もうすでに絶頂が近いのかノアの体がガクガクと揺れ、それに伴って焼けるように熱い肉壁が蠢き、シュナが眉間に皺を寄せる。
 ドクドクとこめかみで血流が流れる音が響き、きゅうきゅうと締め付けてくる中の気持ち良さに、ハッと息を乱しながらシュナがノアを見下ろせば、広がる美しい光景に息を飲んだ。

 快楽に浸るよう、涙と鼻水と涎にまみれぐちゃぐちゃになった、ノアの顔。

 泣き腫らした瞳はぷっくりと膨れていたが、しかしそれが何よりも愛しく、ふっくらとした唇から垂れる唾液を舐めとりながらシュナが唇を塞げば、嬉しげにノアが鼻の奥から甘い声を漏らした。

 ほぼ毎晩、そしてヒートの時は更に貪るように抱き潰してきたというのに、未だ初めて繋がった時のよう、溺れときめく、胸。
 そんなノアの存在は毎分毎秒シュナを圧倒し、その心もその体も全てが美しい。とシュナは腕の中で快楽に泣く愛しの番いを強く抱き締めながら、奥の奥に自身の先端を埋め込んだ。


「ひっ! うっ、ハッ、あ、」

 シュナだけしか触れぬ、大事な場所。
 そこにぐぷぷっと亀頭が入り込んでいる圧迫感にノアがぞわりと肌を粟立たせ、ガクガクと体を震わせる。
 だがしかしそれに勝る気持ち良さにノアは喘ぎ、オメガの性が幸福だと満足げに泣いては、たった一人の自分だけのアルファへと服従するよう、子宮を明け渡した。

「ひ、ぁ、シュ、シュナさ、」
「っ、んっ、……上手だ、ノア、上手」

 よしよし、と労るように頭を撫で、俺のためだけに上手に体を開いてる。とシュナが汗で光るノアのこめかみや額に口付ける。
 そうすればとろんと瞳を蕩けさせ、ノアは快楽に浸りながらも幸せそうに微笑んだ。

「あっあっ、すき、すき、シュナさ、」
「っ……、俺も、愛してる」
「あっ、は、あっあっ」

 ガタガタと軋むテーブルと、肌がぶつかる音。

 そして互いの口から吐き出される喘ぎと愛だけが部屋に満ち、声もなく肢体を仰け反らせながら、ノアがもう色のない精液をぱたたと吐き出す。
 互いの腹の間でじわりと熱く感じたそれがぬるぬるとぬるつくまま、イッたノアの締め付けによりシュナも蠢く肉壁の気持ち良さに眉間に皺を寄せては、唸り声をあげた。

「ぐっ……、ノア、出すぞ」
「ぁ、ひぅっ、ああぁっ、は、はい、あっ、だして、おれのなか、シュナさんので、ぁっ、い、いっぱいにしてっ」
「っ、う、」

 イッたばかりで敏感になっているノアをそれでも容赦なく突き上げ、その刺激にひんひんと泣きながらも、従順にノアが頷く。
 毎日シュナの熱い精液を体内に受け入れているというのに、亀頭が子宮の奥深くにぐぷぷと潜り込むたびノアは目を見開いてぶるぶると体を震わせてはか細い悲鳴をあげ、それが健気で可愛らしく、無体を強いていると知っていながらもシュナはノアのしなやかな体をき抱き、何度目か知らぬ精液を吐き出した。


「──ひぁっ、ぁ、ぁ……」

 どくどくと注がれる、シュナの精液の熱さ。
 そしてもう何日も夜通しセックスをしているというのに尚も変わらぬ量にノアが髪の毛を振り乱し、だが気持ち良さと満たされる幸福に力なくテーブルの上に沈んではひくひくと身を震わせている。
 机の上でくたりとしながら荒く息を吐いているノアは汗で濡れそぼり、それが何とも艶かしく、シュナは射精後のぼんやりとした頭でその光景を世界で一番美しい宝石を見ているかのよう、見下ろした。

「ふ、ぁ、は、」

 未だシュナの精液は止まらず、ヒートが始まってから絶えず注がれ続けたノアの腹は少しだけぽっこりと膨らみ、まるで妊娠しているようで。
 それに思わず手を伸ばしたシュナが腹を撫でれば、ノアはあえかに息を乱しながら、唇を噛み締めた。

「ぁ……、」
「……ノア、愛してる」
「……はい」
「愛してる」
「……は、い」
「愛してる」
「……おれも、愛してます」

 段々と冷えてゆくノアの体を抱き締め、髪の毛を撫であやしながら耳元で愛してると囁き続けるシュナ。

 その温かく頑丈なシュナの体に抱きすくめられながらノアは背中に腕を回しきつく抱き付いては愛していると強く言い返し、けれどもその後はくはくと唇を震わせて噛み締め、ただただ泣きそうな顔をしていた。




 ***



「──ん、……ノア……?」

 未だ夜が明けきらぬ、早朝。
 寝ぼけた頭で身動ぎぽつりとノアの名を呼んだシュナは、しかし腕のなかに温もりが無く少しだけノアの体温が残ったシーツの感触だけしか辿れない事に慌てて目を見開き、がばりと起き上がった。

 窓から覗く外は霧がかり、太陽すら顔を覗かせていなくて。

 群れの誰一人も起きていない気配すら感じたシュナは、ベッドから飛び降りてはノアが数日前巣作りとしてかき集めた自身の服が散乱している床から適当に服を身繕い、柔らかな毛布を手にしては小屋を後にした。


 外に出れば途端に鼻腔を擽る、朝露に濡れた草木の匂い。

 それを揺らす四月の爽やかな風をそれでも感じる暇もなく、シュナが走り出す。

 ようやくノアのヒートが終わったのは昨日で、精液やら汗やらでぐちゃぐちゃになっているノアを何時ものよう風呂に連れて行き綺麗に体を洗ったあと、昨夜小屋へと運んだシュナ。
 そうして可愛らしく寝息を立て始めたのを見届けてから汚れたシーツをひっそりと川で洗濯し、軽く自身もそのまま冷たい川で水浴びをして、ベッドで丸まるノアを抱き締めながら寝た筈なのに。とシュナは焦りつつ、それでも行き先は分かっている。と唇を噛み締めては走り続けた。





 ガサガサとシュナが草を踏み鳴らす音が辺りに響き、静かな森を裂いてゆく。

 そしてぽっかりと開けた場所に出れば、やはりノアが膝を抱えて今はただの草原になっている二人だけの花畑に座り、ぼんやりとしている姿があって。
 その頼りなく消えてしまいそうに儚い姿にシュナは小さく息を飲みつつ呼吸を整え、ゆっくりと近付いていった。


 ノアの薄く華奢な肩からずれ落ちそうになっている、普段シュナが着ている黒いニット。
 それを覆うようシュナは後ろに座って柔らかな毛布で自分とノアを包んでは、そっとノアの肩へと顎を乗せた。

 未だ辺りは霧にうっすら包まれ、まるで世界に二人だけが取り残されてしまったかのように、恐ろしいほど静かだった。




 

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