ヒート話 2※微

 

 一方、小屋から駆け出したシュナはノアのヒートに当てられ火照る体をなんとか鎮めようと深呼吸をしながら、急ぎ足で食料を保管している小屋へと向かった。

 扉を開けばそこにはロアンが椅子に座りゆったりと足を組んで読書をしていて、どうやら夕食の料理の準備をしながら合間の時間を楽しんでいたらしく、シュナに気付き顔をあげた。


「おー、シュナ」

 そう笑うロアンはされど、弟の赤らんだ顔と急いでいる様子に眉間に皺を寄せ、何があったんだ? と小首を傾げる。
 そんなロアンにシュナは口元を拳で覆いながら、よりによってなぜ兄に出くわすのだ。と気恥ずかしさで舌打ちをしたくなったが、それから照れ臭そうに視線をさ迷わせ棚を漁りながら口を開いた。

「ノアが、ヒートになって……」

 ぼそりと言いながら、近くにあった麻袋に水を詰め込んでいくシュナ。
 それにロアンは瞬きをし、それから確かにもうそんな時期か。と以前ノアのヒート時に付き添っていた記憶を思い出しながらも、徐に立ち上がった。

「じゃあこれとこれとこれ、持っていきな。ていうかお前は何で前もって準備しとかないんだよ」

 当たり前のようにシュナの隣に並び、簡単に食べられて日持ちする干し肉や果物を、ひょいひょいとシュナに渡してゆくロアン。
 その頼れる兄の、それでも小言を言ってくる姿にシュナは、俺だって今そう自分を責めてたのにいちいち言ってくるなよ。と弟らしく内心毒吐きながらも、素直に受け取った。

「お前らの小屋には近付くなって皆に言っとくよ」
「……ありがと」
「可愛い弟の為ならお安い御用だよ」

 だなんてわざとらしくからかい、あっはっは。と明るい声を出すロアンがバシバシと嬉しそうにシュナの肩を叩く。
 それに気恥ずかしさから眉間に皺を寄せながらも、シュナはパンパンに膨らんだ麻袋を背負い、じゃあ。と出ていこうとした。

 そんなシュナの後ろ背を眺め、ロアンはまたしても椅子に座り優雅に足を組みながら、小さかった弟が今じゃ立派なアルファになり番いまで持って甲斐甲斐しく世話をしようとしている事に微笑ましい気持ちになりつつも、扉を開け出ていくシュナに声を掛けた。

「シュナ、ちゃんと大事にしなよね。ノアの事」

 そう言うロアンの、深く柔らかな声。
 それにチラッと振り返ったシュナは、勿論だ。という態度をしながらも小さく頷いては小屋から出て行ってしまい、やはりロアンはそんな弟の照れの滲む、だが立派な姿に一人微笑んでいた。

 それからシュナは一旦小屋に戻るのではなく洗濯小屋へと向かい、清潔なタオルを何枚も麻袋に詰めてから、ようやくノアの待つ自身の小屋へと向かった。



 小屋に近付くにつれて甘ったるいノアの桃の香りが漂っていて、その匂いに当てられながらも、ゆっくりと深呼吸をするシュナ。

 もう番いの契りを結んでいるので、ノアのこの蜜が滴るような甘い匂いを感じるのが自分だけになっているという事実にアルファ性が腹の奥で満足そうに唸り、それから早く満たしてやりたいと訴えてくる。
 その荒々しい衝動をけれども必死に抑え、優しくしてやらなければ。などと考えつつシュナが小屋の扉を開いた、その瞬間。

 シュナのそんなちっぽけでなけなしの理性は、目の前の光景に瞬く間に吹き飛ばされてしまった。


 ──呑まれてしまいそうなほど噎せ返る、甘い甘い匂いに満ちた、小屋の中。

 扉を開けたシュナの目線の先にはベッドの上で丸まっているノアが居て、だがそれはシュナにとって衝撃的であり、扉を閉めたシュナはそのままドサッと入り口に麻袋を無意識に落としては、ごくりと唾を飲み込んだ。


「っ、シュナさんッ、はやくっ、」

 シュナが帰ってきたと気付いたノアがピクリと体を揺らし、枕に顔を押し付けながらも、シュナを見ては唇をひしゃげている。
 その熱に犯され籠ったノアの涙に濡れる声に、シュナはふらふらと吸い寄せられるよう、近付いていった。

 そこには、ベッドの上にシュナの服等をかき集め抱き締めながら扇情的な表情をしているノアが居て。

 それは正にオメガの本能である巣作りであり、シュナはその光景にアルファの本能を強く刺激され、グルル、と喉の奥を鳴らしてはベッドの縁に腰掛けノアの汗を掻いている額に張り付く髪の毛を梳いた。

「は、あっ……」

 その些細な触れ合いですらノアが熱い吐息と喘ぎ声を散らし、涙で濡れた瞳でシュナを見る。

 ぎゅっとシュナの服を抱き締めていた手をシュナに伸ばし、早く来て。と催促するノアは可憐であり淫らであり、シュナはやはり抗うことなど出来ぬまま、ノアの上に跨がった。

「……シュ、シュナさん、」

 荒い息ですら甘く、ノアが唇を開いたのを見たシュナが顔を近付け、唇を塞ぐ。
 そうすればビクンッと盛大に肢体を戦慄かせながらもノアはシュナの背を抱き、後ろ髪を掻き乱しては、もっと。と自身へと引き寄せた。


「ん、んっ、はぁ、ん、」
「っ、ん、」

 唇を擦り潰し、舌先を絡めては深いキスに溺れる二人。
 それは荒々しく、ぴちゃりと水音が響いては小屋の中に溶けていく。
 ノアの唾液はやはりいつもより甘く、咥内ですら燃えるように熱くて、シュナは労るよう優しく髪の毛を梳きながら、それからそっと唇を離した。

「……んっ、あ、や、ぁ、シュナさん、もっと」

 一時も、一ミリも離れたくない。と泣くノアが悲しげな顔をし、それにシュナはくらくらと眩暈がしそうになりながらも、ノアの顔中にキスの雨を降らせてゆく。
 その柔い刺激にひくんひくんと震えながらも気持ち良さそうにしているノアに、シュナはそっと口を開いた。

「……ノア、巣作り、上手に出来たな」

 ちゅ、ちゅ。と顔中に口付けながらシュナがよしよしと頭を撫でノアを褒めれば、シュナの首に腕を回したままだったノアが途端に嬉しそうにし、恍惚の表情を浮かべた。

「おれ、んっ、じょうずに、でき、てますか……?」
「ああ。上手だ」
「んあっ、ん、……えへへ、よかっ、たです……。まえ、ヒートになったとき、シュナさんのものがなにもなくて、さびしくて、だから、おれっ……」
「……ん」

 初めてのヒートの時は番いにすらなっておらず、そしてシュナも、シュナの物も何もなかったのが悲しかったのだ。と言いたげにノアが呟き、それにシュナも頷いてはもう一度愛しげにノアの頭を撫で、それからまたしても唇を塞いだ。


 ノアの足がシュナの腰を挟み、密着する下半身。
 シュナの服で溢れたベッドの上とノアの甘い甘い匂いにまみれた小屋は、シュナの理性さえも早々に焼ききり、シュナがノアの体に手を這わせてゆく。
 その度にノアは甘い吐息を溢して体を跳ねさせ、だがもっとと欲しがっては健気にシュナの名前を繰り返すだけで、そんなノアにシュナはギラついた眼差しを向けた。

「ノア……」
「あっ、ん、シュナさ、ん」

 ノアの甘い匂いがする首筋に顔を埋め、尖らせた舌を滑らせるシュナにノアはぎゅっとシュナに抱きつきながらも、顎をあげ快楽に涙を流している。
 重なった腰は互いの陰茎をごりごりと擦らせ、ノアはひきつった声をあげながら枕に綺麗な金色の髪の毛を散らした。

「や、あ、あ、だめ、シュナさん、イッちゃ、」

 はくはくと喘ぎ、掠れた声をあげるノア。
 それはやはり淫らで、シュナは駄目押しとばかりにもう一度腰をノアのモノに押し付ければ、ノアがたったそれだけで全身を固くさせながら弱々しい悲鳴をあげ、果てたのが分かった。


「──ッ、ひ、うぅっ、」

 ぎゅっと目を瞑り、ふるふると震えたノアがポロポロと泣きながらくたりと枕に沈んでは激しく息を乱していて、シュナはそんなノアの敏感すぎる体を労るよう、上手にイケたな。と言わんばかりに頬を撫でた。

 とろんとしたノアの瞳が、されど消えぬ欲情を燻らせたままシュナを見る。

 性を吐き出したものの、それでも後ろは依然として寂しく疼いていて、ノアはあえかに息を吐き先ほど吐き出した精液と後肛から溢れる愛液で下着だけではなくズボンまでぐしょぐしょにさせたまま、……助けて。とシュナへと手を伸ばした。

 その手を取り、自分よりも一回り小さなノアの手に恭しくキスをしたシュナ。

 だがそんな優しい仕草とは裏腹にその瞳もやはり熱を燻らせ鈍く光っていて、余すことなく食べたい。とシュナは腹を空かす獰猛な狼の眼差しでノアを見ながら、真っ白なシーツへとノアを縫い付けた。




 

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