愛らしい二人 SS

 

 ギシッと軋む、ベッドのスプリング音。
 その音をもたらしたノアはされど、ベッドの縁に腰掛けているシュナの膝の上にいつものよう乗りあげ、幸せそうに微笑んでいるだけだった。

 ノアのしなやかな腕が、するりとシュナの首に回る。
 それを当たり前のように受け入れ、自身も腕をノアの細い腰へと回すシュナ。

「シュナさん」

 だなんてノアの甘ったるい声がシュナの名前を呼び、それにシュナも小さく微笑み返しては口を開いた。

「ノア」

 そう囁くシュナの声は低く、だがとびきり甘く掠れていて。
 そしてじっと見つめては少しだけ口元を弛めているシュナのその姿はとても愛らしく、格好良く、ノアはうっとりとした表情をしながらシュナのすっと通った鼻先にかぷりと噛み付いた。

「ふ、」

 ガジガジ。と鼻先を甘噛みしてくるノアに好きなようさせてやるシュナが、されど擽ったいのか小さく笑い声を漏らし、その声が二人きりの小屋の中に溶けては消えてゆく。
 ノアがシュナの膝の上に乗ったまま尚も鼻先をかぷかぷと噛んでいる最中も、シュナの腕はノアの細い腰を握ったままで。
 だがそれから片方の手をするりとノアの背筋へと当て、背骨のひとつひとつを辿りながらゆっくりとのぼってくるシュナの指に、ノアがぴくりと小さく身動いだのが分かった。

 ノアの滑らかな首の後ろに手を這わせ、つぅ。とうなじをなぞる、シュナの武骨な指。
 その柔い刺激にひくんと身を震わせたノアは、噛んでいた鼻に今度はちゅっちゅっと唇を押し当てつつ、ふわりと微笑んだ。

「シュナさん、好きです」

 そうぽつりと囁かれる、ノアの声。
 それはやはり蕩けるほどに甘く、上を向いてノアからの可愛らしい愛撫をただ享受していたシュナだったが、堪らず今度は自分の番だとノアの頬に鼻先をすりすりと擦り付けた。

「ふふっ」
「……ノア、愛してる」
「俺も愛してます」

 シュナのストレートな愛の言葉に、うっとりと瞳を弛ませ微笑むノア。
 そのはにかんだ笑顔が何よりも好きだと、シュナはノアの柔らかくすべすべの頬に口付けをしたあと、一度唇にも優しいキスをしては、そろりとノアの首筋に顔を埋めた。

 ノアの首筋から香る、甘く芳醇な桃の匂い。

 だがそれには確かに自身の匂いが混ざっており、それにアルファ性が満たされたままスンスンと鼻を鳴らしたシュナは、首と肩との境い目、自身がノアに消えない痕を残した所に今一度かぷりと噛み付いた。


「んあぁっ」

 途端に甘い嬌声を漏らし、ノアがびくびくと身を震わせている。
 ほんの微かな痛みと余りある快感が走るのか、過剰に反応するノアを労るよう、それでも精一杯愛していると伝えるよう、噛んだそこをシュナは優しく舌先で撫でた。


「んっ、ふ、ぅ……、」

 ぴちゃ、とシュナが水音を響かせながらノアの首筋を舐めれば、それにノアが甘い吐息を漏らしながらも、もっと。というよう身を寄せてくる。
 もう離れている所など無いというほど重なっているのに、それでも尚ぴたりと隙間なく密着したいとぎゅうぎゅう抱きついてくるその姿が愛らしく、シュナはノアの後ろ髪に指を絡ませながら、何度も何度もそこを噛んでは舐めてを繰り返した。



「っあ、ん、シュナさ、ん……」

 数分後。吐息まじりにシュナの名前をあえかに呼ぶノアが、顔を真っ赤に染めふるふると震えつつ、しかしぎゅっとシュナの肩に乗せた指に力を入れている。
 その少しの制止に気付いたシュナが離れがたいというよう渋々ノアの首筋から顔をあげ、それから小さく困ったように微笑んだあと、それでもクイッと首を傾けた。

 ノアの眼下に晒された、シュナの陽に焼けた美しい首筋。

 だがそこには一昨日も昨夜も自身が付けた噛み痕とキスマークが色濃く残っていて、ノアはそれを眺めては幸せそうに微笑んだまま、何時ものよう顔をそこに押し付けた。

「っ、」

 ちう。と今度はノアがシュナの首筋に唇を押し当て、それからがぶりと噛み付く。
 歯が肉を刺す鋭い刺激にシュナが小さく息を漏らしたのを聞いたノアは満足げにし、だがそれから慰めるよう、皮膚をはむはむと食んでは舐め始めた。


 ──アルファがオメガを噛むのとは違い、オメガのノアがアルファのシュナの首を噛もうが何をしようが、実際には何の意味もない。
 だがノアはシュナの首を噛むのが大好きで、まるで儀式のよう、毎晩お互いに噛み合うという行為をしたがるのである。

 それはまるで、シュナの所有者は自分なのだと知らしめているかのようで。
 しかしその噛み方はシュナにとって小鳥がピヨピヨと鳴いて可愛らしく噛んでくるものくらいでしかなく。
 そんな若干の拙さが可愛らしく、とびきり愛しくて、シュナはノアの好きなようにさせたいと何も言わずいつも首を差し出しているのだが、しかし毎晩ともなると流石に打撲傷のように連なる痕や噛み痕は目立つ訳で。
 それを群れの皆に笑われていると知りつつも、それでもシュナはやはりノアの好きなようにさせてやり、それから暫くして満足したのか嬉しそうにパッと顔を上げたノアに、ふっと微笑んだ。

「……満足したか?」
「んふふ、はい」
「……ん。じゃあ次は俺の番な」

 頬を紅く染めながら嬉しそうに頷き笑うノアに、……可愛い。とシュナが目を細め、だがそれからノアの腰を強く抱いては体を捻り、ボスンッとノアをベッドの上へと押し倒す。

 その反動で、ギシッと一際高く鳴る、ベッドのスプリング音。

 されど倒されたノアはただ嬉しそうにし、恍惚とした様子で上に乗ってくるシュナの首にゆるりと腕を掛けるだけ。
 その真っ白なシーツの上に沈むノアの柔らかな金色の髪の毛が美しく、シュナはのそりと上に乗りながらもノアの髪の毛を優しく梳き、そっと顔を近付けた。

 ふわりと重なる、二人の唇。

 ん。とノアの唇の隙間から漏れる声は柔らかく、甘く、……愛してる。だなんて馬鹿になった脳ミソでそれだけを心の中で繰り返しながら、シュナはふにふにと柔らかいノアの唇を堪能した。

「ぁ……、ん、む、」

 口付けの合間に落ちる艶やかなノアの吐息混じりの声は耽美で、それすらも全部欲しい。とシュナが何度も唇を重ね合わせていれば、もっと。とねだるようシュナの襟足を撫でてきては引っ張ってくるノア。
 その従順さに、そしてとびきり可愛らしい姿にシュナは微笑みながら「愛してる」と囁き、愛を与えるよう、どちらも愛に溺れるよう、ひたすらにキスをし続けたのだった。



【 毎晩の幸福 】




 

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