「練習つかれたっす!でも終わったら先輩んちいけると思ってがんばったんすよー!」



一週間というのはあっという間でもう約束の日曜日になってしまった。
切原くんはくったくのない笑顔で私に話しかけてくれる。

部活終わりにみんなと一緒に私の家に向かうのはなんだか不思議な感覚だ。


「そっか。切原君がんばってたもんね。でも私の家はほんとにたいしたことないよ。」

切原君の期待?を裏切ってしまいそうだ。


幸村君たちが私の家に遊びにきたいといったあの日、私はお父さんとお母さんにそのことを伝えた。話を聞いたお父さんお母さんはそれはそれは喜んでくれておもてなししなきゃとすごく張り切っていた。

小学生の頃から引っ込み思案でその上どんくさかった私はなかなかりょうちゃん以外の仲のいい友達ができなかった。
そんな私が部活に入ったこと自体が奇跡だったのに、「部活の友達」を家に連れてくるなんて両親は想像もできなかっただろう。
私自身だってこんな展開になるなんて驚きだった。しかし同時になんて果報者なんだと思って、胸があたたかくなったのだ。


「名字の家は総合病院の近くなんだな。」

柳君が周りを見回して冷静に言った。
さすが、よくみている人だ。

「そうだね。この辺の住宅街からは歩いて10分ってとこかな。」

切原君と先頭を歩く私は斜め後ろを歩いている柳君を振り返って言った。


「病院も近いし便利のいいところだよね。」

幸村君がニコニコ顔で私を見る。

「まあ、病院に世話にならんのが一番だがな。」

真田君が険しい顔で言った。


「そうだね。」

私はこれ以上なんと言ったらいいのかわからずあいまいに微笑む。


「あっ、ここだよ!本当に何もないけど、どうぞ。」


話し込んでいるうちに、家の目の前に着いてしまったので私はあわててみんなに入ってもらうように促した。
ごく一般的な庭付きの戸建てにみんなは「ここかー!」と声を上げながら、門扉を開けて入っていく。


私はみんなが玄関前に着いたところで、手前のインターホンを押す。
ピンポーンとどこか間抜けな音が響いてインターホンが繋がる。
みんなはいつもと打って変わって静かになった。


『ただいま。えっと、部活の人達がきてくれたよ。』

私はインターホンに向けて言った。

『おかえりなさい。あら、はやかったのね。すぐに開けるわね。』

インターホンからお母さんの声が響いて、そのままぷつっときれる。玄関に向かう足音が聞こえるとがちゃりと音を立ててドアが開く。

「いらっしゃい。名前の母です、いつも名前がお世話になってます。みなさん、上がってちょうだい。」


お母さんがにっこりと笑って言った。
みんなを見て微笑むお母さんは我が親ながら美人だなあと思う。
そんな私は残念ながらお父さん似なんだけれど。


「いえ、こちらこそいつも名字さんにお世話になっております。今日はお邪魔させていただきありがとうございます。」


真田君が帽子をとって堅苦しい言葉であいさつをした。
みんなも軽く頭を下げて、口々に挨拶をして中に入っていく。

玄関に大の男の子の靴がたくさん並ぶのはなんだか新鮮でくすぐったい気持ちになる。

私もみんなに続いて靴を脱いでリビングに向かう。すると、ふいに肩をたたかれる。


「大勢でおしかけるような真似をして本当にすまないな。」

耳元で柳君が小さく言った。我に返って柳君を見上げると、眉を下げて笑っている。

「あいつらがはしゃぎすぎないように見張っておく。」

柳君は頭をぽんとたたくと、リビングに入っていった。
なんだか、柳君がモテる理由がわかったような気がする。私はぼうっとする自分にかつを入れて追いかけるようにリビングに小走りで向かった。








「おばさん、このケーキすっげえうまいです!」

丸井君が目をキラキラさせながら言った。
お母さんは片方の手を頬に当ててうふふと笑っている。
テニス部のみんなにとお母さんが張り切って作っていたケーキだ。こうも褒められるとうれしいだろう。

「名前はあんまり甘いもの食べないから、そう言ってもらえると嬉しいわあ。」

お母さんは私をちらりと見ながらふふふと笑って言った。

「えーっ、名字もったいねーだろ!」

丸井君は心底おどろいたような顔をしている。

私はケーキは好きだけど、甘すぎるのは苦手なのだ。



テニス部のみんなは先ほどからわきあいあいとはしゃいでいる。かくいう私も柳生くんと話し込んでいた。

柳生君は読書好きみたいで、同じく読書が好きな私と話が合う。特にミステリーがすきらしくて、私もたまに読むと言ったらとても喜んでいた。

「ミステリーでくくるとしたら、王道かもしれないけどアガサ作品が一番好きかなあ。普段は純文学系を読むことが多いんだけどね。」

うんうんとうなずく柳生君に話す。


「そうですか!私もアガサが一番好きなんですよ。純文学はあまりよみませんねー。何か私におすすめはありませんか?」

柳生君はイキイキとこちらを見る。なんだかその顔がかわいくて思わず微笑んでしまう。テニス部の人たちのテニス以外の一面を知るのは初めてだけど、知ることができてよかったなあと思う。


「そうだなあ。『蛍川』とか、私面白かったな。」

少年の揺れ動く心の描写が丁寧で読み応えのあった作品の名前を上げる。



「それなら俺も読んだが確かに名作だったぞ。」


柳生君と話していたはずが柳君の声で返ってきた。
驚いて声が聞こえた柳生君とは逆の左隣を見ると、すました顔をした柳君が足を組んで座ってこちらを見ていた。一体いつからいたんだろう。
柳生君はひきつった顔をしている。


「あれ、柳君さっき向こうで幸村君たちと話してなかったっけ?」

私が尋ねると、柳君はいたずらっぽく笑う。

「こちらの話が俺好みだったので、ぬけてきてしまった。」


肩をすくめ、そう言った柳君はなんだかいつもより年相応に見える。
柳生君にしろ柳君にしろ、プライベートでは意外な表情をするんだなと思う。


「あ、そういえば私の部屋に行くって話だったよね。」


私はふと先日の柳君との会話を思い出した。
柳君は「覚えていたのか。」と言うと、

「俺としてはぜひとも行かせていただきたいところだな。」

と言って首を傾げてふわりと笑った。











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