今まで周りに助けられてきて、なんとか生きてこれた。 今度は私が誰かのために何かできたらと思う。 できることなら、誰かの幸せになってその人の中で生き続けたい。 少女の日記冒頭部分より抜粋。 宣告を受けてからもう半年が過ぎた。 余命のことは家族と親友のりょうちゃんだけしか知らないけれど、みな残された時間を私の思うように過ごしてほしいと言ってくれた。大切な人たちを悲しませてしまっていると思うと私はひどく胸が痛くなる。しかし、だからこそ残された時間を大事に生きよう思えるのだ。 「テニス部の奴らには、まだ言わないの?」 りょうちゃんが気遣わしげに言った。 テニス部。 私は二年生のとき、小学生の頃近所で仲の良かったジャッカル君と偶然同じクラスになった。小三のころに私が発病して、病院の近くになるようにと少し遠くに引っ越してしまったのでそれは本当に久しぶりの再会だった。 彼も再会を喜んでくれたようで、私たちが再び仲良くなるのに時間はそうかからなかった。 そんなときに、私の病気のことを知らない彼からテニス部のマネージャーになってくれないかと頼まれだった。 本来、私の病気は症状が薬で抑えられているうちは健常者と変わらない生活を送れるものだったので、私は、役に立つならとその頼みを引き受けたのだった。 今まで病院の先生や両親に助けられて生きてきた私が、人を支えるマネージャーなんてできるのだろうかと不安な気持ちがなかったわけではない。 しかし、両親は喜んでくれ、忍足先生からは「適度に体を動かすことも大事やし、一度しかない中学生活を楽しみや。」と優しく背中をおしてもらって、そして決意したのだった。 実際にやってみると、マネージャーの仕事はとてもやりがいのあるもので自分に少し自信もついた。人気者のテニス部のみなさんと関わるのは緊張したけれど、レギュラー、補欠の方共々みないい人達で私は少しずつ馴染んでいくことができた。 そして結果立海は見事二連覇を果たし、マネージャーとして私もとてもとても嬉しかった。 だけど、体調が悪くなったのもこのころからだった。 悪いといってもほんの少し苦しくなることや頭痛が増えたくらいだったけれど、私の病気はそれが命取りであることは昔から再三言われていたので、余命を宣告されたときもとうとうか、と受け入れることができた。 しかし、テニス部のみなにそれを言うわけにはいかない。 立海には今年三連覇がかかっているし、何より私が言いたくはなかった。 私に、誰かの役に立つという喜びや達成感を与えてくれたのはテニス部だった。 そんなこと、今まで生きてきて初めてだったから。だから、最後まで出来る限り役目を全うしたかった。 その為には言えない、言うわけにはいかない。 「うん。言わない。」 私はりょうちゃんに向かって静かに微笑んだ。 「でも、もう半年過ぎたでしょう?体の方がきつくない訳ないじゃない!」 りょうちゃんは顔を歪ませると、いよいよ泣き出しそうな表情になる。 私はそんな顔をさせてしまっている自分がひどく嫌になる。 「ごめんね。体の方はね、まだひどい症状はないから大丈夫だよ。」 私は少し嘘をついた。私にはやるべきことがまだあるから。 りょうちゃんは、唇を噛みしめて泣くのを我慢しているようだ。 「私は名前のこと大好きだから…。名前がやりたいことは全力で応援するけど…、でも自分のことももっと大事にして…!名前が生きてないと全部意味ないんだから!」 りょうちゃんは、イスから立ち上がると机越しにぎゅっと私を抱きしめた。 私もそっと彼女の背中にてをまわす。 ありがとう。私は本当に果報者だね。 大好きだよ、 「ありがとう。」 私は心の中でありがとうとごめんねを繰り返し唱えていた。 [mokuji] [しおりを挟む] |