誰かが、彼女を「星」のようだといった。

そして僕も、その通りだと思った。








「名前ちゃんな、余命一年なんや。」



忍足先生から宣告されたとき、ふとよぎったのは大切な人たちの姿だった。


そしてそんな大切な人たちを悲しませてしまうことをとても申し訳なく思った。



忍足先生は、瞼を伏せて悲しそうな顔をしている。

私自身先ほどの忍足先生の言葉に動揺をしていないかといったら、嘘になる。
しかし、自分の体のことは自分が一番よくわかっている。それが長年付き合ってきた病気なら尚のことだ。最近今までの薬が効かなくなって頻繁に動悸がおこるようにもなってきた。

もしかしたらもうすぐなのかもしれないと頭の片隅で予感していた。



「先生は何も悪くないので、そんな顔しないでください。…私も何となくわかってましたから。」


私は先生に向かって静かに微笑む。

開け放された診察室の窓から入ってくる柔らかな風にカーテンがふわりと舞い上がり、風が私たちの間を撫でていく。


忍足先生は、ひどく哀しく、そして優しく微笑んでくれた。


「…薬は少し強いやつ出しとくから、安心してな。症状は悪化してくると思うけどあくまでゆっくりや。いきなりはひどくならへんからそんな心配はせんでええよ。」


先生は安心させるように言った。



「はい。」


私も奥底の恐怖にそっと蓋をして、同じように返事をする。



「名前ちゃん、言いたくないけど…部活もな、するのが難しくなっていくと思うで。今のうちにやめた方がええとは思う。」



忍足先生は、推し量るように慎重に言葉を紡ぐ。



「すみません…。部活だけは、続けたいと思っています。…できれば最後まで。」


わがままを言うのは、初めてかもしれない。
忍足先生には心配をかけるけれど、これはわたしの最後の願いと言ってもいいだろう。



「さよか。反対はせえへんけどくれぐれも無理はせんようにな。自分の体第一やで。」



忍足先生には、私がこう言うのがわかっていたようで執拗に止めたりはしなかった。
私は忍足先生の優しさに深く感謝する。




「ありがとうございます。」



「おん。ほなまた二週間後な。」


忍足先生は暗い雰囲気を打ち消すように、ニッと笑った。



「はい。よろしくお願いします。」


私も負けないように、らしくなくもニッと笑い返してみせる。







病院からでると、外のさわやかな風と日差しが体を包み込む。周りの木々や草花もさわさわとゆれて気持ちがよさそうだ。病院は白すぎるのか、と私は漠然とそう思った。
私は足早に病院の敷地から出ると、かわいい文房具屋に入る。ここは意外といろんな物が揃っていて私の学校の生徒たちにも人気なのだ。私は迷わずに目当てのノート売り場にいって、あたりを物色する。

すると、近くに私好みの素敵なハードカバーの日記帳を見つけてしまった。これにしよう、と私は心の中で呟いてそれを手に取りながら『これから』に思いを馳せる。



私は私の生きている限り、一生懸命生きたい。
そして、願わくば誰かの幸せになれたらこれほど嬉しいことはない。


















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