千歳君
ハロウィンだから仮装して来ようよ、ということになり、今日は友達何人かと仮装して学校に来ている。まあ、私は仮装って言っても、紺のワンピースに赤いリボンをつけただけだけどね。一応宅急便とか届けちゃう、あの魔女のつもりです。
それにしても、魔女やバンパイアがいても普通に授業が進んじゃうなんて、今さらだけどこの学校すごいな。
1時間目の授業が終わって、次は移動教室か、なんて思いながら廊下に出ると、後ろから誰かに腕を捕まれた。
振り向くと、すっごく背の高い男の人が笑って立っていた。知り合いにこんな人いたっけな、と不思議に思っていると、同じクラスの小春ちゃんが、千歳ジブリ好きやねん、堪忍な、と教えてくれた。千歳さんって言うんだ。
「キキばい!魔女子さん、魔女子さん!」
楽しそうに私の腕をブンブン振る千歳さんがなんだか映画のトンボに重なって、ちょっと笑ってしまった。なんか可愛いかも。
そんな私を不思議に思ったみたいで、千歳さんは可愛い笑顔のまま首を傾げた。
「なんで笑っとぉと?」
「ふふっ、なんか千歳さん、可愛いなーって思って。」
あ、もしかして可愛いって言われるの嫌だったかな、と思って千歳さんを見ると、千歳さんは口の端をニイッとあげて、顔を私の耳に寄せた。
「伊織のがむぞらしかよ。」
あまりの至近距離と低い声音にびっくりして心臓がドキドキしてる私を見て、千歳さんは満足げに微笑んで、またなー、と去って行った。
教えてないはずの名前を知られていたことに気づいて、さらに赤面するまで、あと5秒。
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