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一氏君


今までは一方的に憧れているだけだった一氏先輩。

だけど今日はハロウィン!知らない人に話し掛けても、うちの学校なら何の違和感もないハロウィン!改めて四天宝寺のお祭り大好き気質に感謝だよ。



そう思って一氏先輩にトリック オア トリートと話し掛けようと意気込んだものの、授業の間も昼休みも一氏先輩を見つけることはできず、もう放課後になってしまった。

どうやら放課後に小春先輩とやるハロウィン特別お笑いライヴの合わせをどこかでしていて見つからなかったみたい。お祭り事の時の一氏先輩がこんなに忙しいだなんて、盲点だった!

お笑いライヴはもちろん見に行くけど、トリック オア トリートは言えそうにないな。だってお笑いライヴの後は一氏先輩と小春先輩、たくさんの人に囲まれるし、その人をかきわけて一氏先輩にトリック オア トリートって言うなんて、恥ずかしくて倒れちゃうよ。ああ、でもその恥ずかしさを乗り越えたら一氏先輩とちょっとだけ話せる(かも)なんだよね。どうしよう。うーん、なんていうか、

「デッド オア アライブ、」

今の心境をついポロッとこぼすと、後ろか、ブッと吹き出す笑い声が聞こえた。

うわあ、みんなお笑いライヴに行ってて廊下にはもう人いないと思ってたから、独り言言っちゃったよ。恥ずかしい。

どんな人に聞かれたんだと振り向くと、ここにいるはずのない一氏先輩がと楽しそうに笑っていた。

「ぶはっ、お前、そこはトリック オア トリートやろ。ハロウィンにどんだけ命懸けてんねん。」

「えっ、今からお笑いライヴじゃ、」

「ちょっと小道具忘れて部室まで取りに行っててん。まだ始まるまでちょっと時間あったからなー。てかお笑いライヴがあるって知ってんなら、こんなとこボサッと立っとらんとはよ来いや。」

わわわわわ、どうしよう。私、今、一氏先輩と話してる。

「一氏先輩!トリック オア トリート!」

意気込んでそう言うと、一氏先輩は一瞬ポカンとしてからまた吹き出した。

「は、ははっ、なんでこのタイミングやねん。おもろいやっちゃな、お前名前は?」

「神崎伊織!2年です!」

「おし、神崎な。ほら、これやるわ。白石が配ってた飴ちゃんやから、貰いもんで悪いけど。」

一氏先輩は手ぇ出せやー、と言って、私の手の上に可愛い包みの飴を3個のっけた。

「ありがとうございますっ!」

もう嬉しくてしばらく動けそうにないよ。ああでもお笑いライヴ行きたい、どうしよう。

一氏先輩は、白石にぎょーさんもろたからええねん、ええねんと言ってくれた。

「うっわ、時間ないやん!ほら、神崎急ぐで。」

一氏先輩は時計を見ると、私の腕を掴んでいきなり走りだした。

「うわわわわ、こけます!一氏先輩、危険、デンジャラス!」

「こけへん、こけへん。」

走りながら振り返って、今からお笑いライヴやねんから、しっかり笑ってきや、と言った一氏先輩がかっこよくて、また惚れなおしてしまった。


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