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財前君


「トリック オア トリート。」

「…へ?」

席に座って次の授業の準備をしていると、隣の席の財前君が何か話し掛けてきた。

「へ、ちゃうわ、アホ。トリック オア トリート言うてんねんけど。」

「あ、そっか、うん、ハロウィンだもんね。」

仮装してる人もチラホラいるし、みんなに大人気な白石先輩もキャンディー配ってたし(友達と一緒にもらいに行ったら面識ないのに笑顔でキャンディーくれたよ!)、小春先輩と一氏先輩もハロウィン仕様なお笑いライヴするってポスター貼ってあったし、別にハロウィンを忘れていたわけではないんだけど、まさか財前君から言われるとは思っていなくて反応が遅れてしまった。

「ごめんね、財前君。今日持ってきたお菓子、みんなさっきの昼休みに配っちゃった。」

だからあげられるもの何もないんだと謝ると、財前君は別段へこむわけでもなく、クールな表情のまま、せやろな、知ってる、と言った。知ってるなら、なんでわざわざ言ったんだろう、と不思議に思っていると、財前君はさらに続けた。

「お菓子ないんやったら他のもんもらうわ。」

「肩叩き券でいいなら今から作るよ。」

次の授業の為に用意していたノートとシャーペンを見せながら言うと、呆れたようにため息をつかれた。

「いらんわ、そんなん。」

えー、貴重なのに、と言い返そうとしたけど、バッと何かを突き付けられ、びっくりして言葉を飲み込んだ。

「お菓子をもらえへんかった俺は、神崎から時間をもらうことにする。つーことで、今日の放課後、ここ行くで。」

時間?どういうこと、と思いながら財前君が差し出したものを見ると、「ぜんざい、ペアなら半額」と書かれた券だった。あ、ここ学校の近くの美味しい甘味処だ。

「二人やったら半額やねん、ぜんざい。」

「わー、ここ美味しいよね。行く行く。」

楽しみだねー、と笑うと、財前君は、せやな、とクールに言った。

でも、その表情は、ちょっと柔らかいような気がして、嬉しくなった。


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