一氏君とボケとツッコミ
「うっぐぃいぁああああ!」
「っ、な、なんやねん!」
教室の窓の外を見て、夏ももう終わりかー、なんて思いながらあくびをしていると、前の席の一氏君が肩をビクッとさせて振り返った。
「へ?ああ、ちょっと眠くてあくびしちゃった。」
「いや、しちゃった、とか語尾に星つけて言ってもなんも可愛ないで。なんやねん、今の!なにがあくびや、お前あくびに謝れ。今のは断末魔や!」
くわっ、と目を見開いて言う一氏君の勢いにちょっとひきつつ、ちょっとあくびしただけなのに、と小声で言ったら、あれがちょっとやとーっ!とまた怒鳴られてしまった。
「もう、あくびくらいいいじゃん。夏休みも終わったし、なんかだらけちゃったんだもん。」
「ああ、まあ、だらける気持ちもわからなくはないわな。ほんならこれ、この雑誌見ぃや。ここ、9月入ってもまだプールやってんねんて。」
「え、なんて?」
ぼんやりしてて聞いてなかった。夏バテかな、と笑うと、お前のは年中ボケボケやと頭をはたかれた。ひどいや。
「せやから、プール!100mのプールが見所や!」
「え、100mのトイレ?」
誰が何のために作ったんだ、ていうか一体どこの長さが100mなのかと真面目に考えていると、一氏君がすごく何か言いたげに口をぱくぱくとさせて、また目をくわっと開いた。
「っ、なっんもおもろいツッコミでてけーへん自分自身にがっかりや!」
「まあまあ、そんな時もあるって、元気だしなよ。」
「お前のボケが斜め下すぎるのがアカンのや、アホ!」
あ、今のツッコミよかったよー、と笑うと、盛大にため息をつかれた。
「もう神崎いやや。ついていかれへん。」
「ひどいなー。私はこんなに好きなのに。」
「…そろそろわかってきたわ。どうせ、ツッコミが、とか言うんやろ。」
「え?いや、違うよ。一氏君が。」
「…は?」
びっくりした顔のまま固まった一氏君を見て、あれ、私好きって言ってなかったっけか、と思った。
「言ったと思ってたんだけどなー。あはは、うっかりうっかり。」
「う、うっかりうっかりちゃうわ!年中ボケボケもたいがいにせぇ、アホ!」
一氏君はそれだけ言うと、真っ赤な顔で教室を飛び出してしまった。
一氏君が置いていった雑誌を見て、とりあえず一氏君が帰ってきたら、このプールに一緒に行こうと誘ってみようと思った。
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