short | ナノ


うろたえる神尾君


最近、同じクラスの神崎にすっげー睨まれていることに気づいた。

気のせいかとも思ったけど、ぜってー気のせいじゃねー。

だって、視線感じてそっち見ると、眉間に力いれて俺を見てる神崎と目合うし。しかも目合ったらすぐにそらされるし。

なんだよ、俺、なんかしたか?いや、してねー。

他の奴と話す時は普通に笑ってんのに、俺見る時だけ笑ってなくて睨んでるとか、俺、すっげー嫌われてない?別にだからどうってわけじゃないけど、なんの心当たりもなく嫌われんのは、なんかむかつく。

見られてんのに気づいた初めの頃は、もしかして俺のこと好きなんじゃ、なんてばかなことを考えもしたけど、今ならわかる。ぜってー違ぇ。

だって、見られてんのが気になって、よく話しかけたりしても、全然そっけないし。こないだ席隣になった時も、よろしくなって笑ったら、ああ、よろしくって、冷静に返されたし。

そんなことを考えていたら、隣に神崎が座った。まあ、隣の席なんだから当たり前だけどさ。

隣に座った神崎は、前の席の友達と楽しそうに笑って話していた。ほら、笑えんじゃん。なんで俺にはいっつもしかめっ面なんだよ。

もしかしたら今話しかけたら、友達に向けたまま笑ってくれんじゃねーかなー、なんて思って、俺は机に突っ伏していた顔をあげた。

「神崎、」

「なに?」

俺が呼び掛けると、神崎はさっきまで笑っていたとは思えないくらい固い顔をした。眉間にもすっげー力入ってる。

なんかだんだん腹立ってきた。俺が何したってんだよ。

俺は席を立って、神崎の手をとった。席を立った時のガタッという音の大きさに驚いて固まったのか、神崎はなされるがまま俺に手をひかれてついてきた。

まあとりあえず二人で話せるとこに行こう、なんて思って屋上に向かった。

「なあ、なんでいつも睨んでくんだよ。」

「えっと、睨んでなんか、ないよ。」

睨んでない、と言いつつも、神崎は眉間に力を入れたままだった。

だからそれが睨んでるっつってんだけど、と言おうとして、ムッと眉をひそめると、神崎はいきなり目を開けたままボロボロ涙を流しはじめた。あまりに唐突だったから、泣いてるって理解するのに少し時間がかかってしまった。

「な、ななんで泣いてんだよ!」

「ご、ごめん、なさいいい!」

もしかして掴んでた腕が痛かったのかと思って腕を離すと、神崎はザッと俺から距離をとった。

「ああもう、俺が悪かったって、いきなり屋上になんてひっぱってきて。」

頭をかきながら、でも別に俺怖くねーから、と言うと神崎は、コクコクと小さく何度か頷いた。

「神尾君は、こわくないよ。」

だよなー、俺怖がられることとかしてねーもん。

「うん、まあ、怖がられてないなら、それでいっか。なんで睨まれんのかはわかんねーけど。」

あ、もしかして、怖くはないけど嫌いとか?と冗談めかして聞くと、少しうつむき加減だった神崎がバッと勢いよく顔をあげた。え、なにこの反応。もしかしてビンゴ?

なんとなく、ちょっとショックかも、なんて思いながら、はは、と乾いた笑いをうかべていたら、距離をあけていた神崎が近寄ってきた。

「きっ、きらいじゃない!」

「へ?」

「きらいじゃ、ないよ!」

あまりに力一杯言われるものだからなんだか照れてしまって、小さく笑いながら頬をかいた。

「じゃあ、好き?」

別に好きだって言われたわけでもないのに照れてる自分が恥ずかしくて、照れ隠しでそんな冗談を言った。

まあ、たぶん、いつもみたいに目ぇそらしながら、好きじゃない、とか言われるんだろうな。

「、っ!…はい。」

「…へ?」

驚いて神崎の顔を凝視していると、神崎は顔を真っ赤にさせて、ではそういうことで、と立ち去って行った。口調だけいつものように冷静に戻しても、顔真っ赤だったら、なんつーか、…そんなん、もう可愛いだけじゃねーか。

神崎が去って行った屋上で一人しゃがみこんで、うー、あー、と唸った。

とりあえず、周りに人がいなくて本当によかった。

おそらく赤くなっているであろう顔の熱がおさまったら、もう一度神崎を捕まえに行こう。





神尾君誕生日お祝い企画

セルフリクエストで「いつも見つめられているのを、ガンつけられていると勘違いして、文句あるならはっきり言えよな!と女の子に言って泣かせてしまってうろたえる神尾君」でした。


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