神尾君のスピード対決
四天宝寺の人たちとの練習試合が無事終わり、着替えてみんなでお好み焼きでも食べに行こうか、なんて和やかな雰囲気が流れていたはずなんだけど、私が着替え終わって部室を出ると、なぜか神尾君と忍足さんが火花をちらしていた。
「ぜってー負けませんって!」
「威勢はええなあ!せやけど浪速のスピードスターのほうが上やっちゅー話や!」
橘さんに状況を聞いたところによると、どうやら忍足先輩が、いやー自分めっちゃ速いなー!まあ俺のが速いけどな!って爽やかに笑いながら言ったことが発端らしい。
「橘さん、止めなくていいんですか?」
「ははっ、元気があっていいじゃないか。」
いやいや元気ってレベルじゃないですよ!と言いたかったけど、橘さんがあまりに爽やかに笑うものだから何も言えずに押し黙ってしまった。
「そんなに言うなら今から勝負しましょうよ!」
「おう、受けて立つで!」
あー、なんだか長くなりそう。お腹へったし、お好み焼き早く食べたいのにな、なんて思いながら周りを見ると、「元気だなー。」「そうたいね。」となごんでいる橘さんと千歳さん以外はみんな、この対決にあんまり興味なさそうだった。
はよお好み焼き食べたいわー、と駄々をこねる遠山君と、それをなだめる白石さんと小石川さん。
白石さんが今日の練習試合中にエクスタシーって言ってた時の写メをブログにあげたろってほくそえんでる財前君と、それに対して、財前はんはハイテクやなー、とちょっとずれたコメントをしている石田さん。
神尾君にロックオーン!と楽しそうに踊っている金色さんと、浮気か!と言いながらその周りをくるくる回っている一氏さん。
…四天宝寺って、キャラ濃いな。
まあ、一人残らず、なんか橘さんすっごく楽しそう!って言いながら橘さんの写メをとりまくってる不動峰のみんなも、ある意味キャラ濃いのかも。
かくいう私も、もちろん橘さんの楽しそうなキラキラ笑顔を携帯におさめたけどね。
橘さんフォルダにまた一つコレクションが増えたことに喜びつつ、この対決いったいどうしたらいいのかなと少し考えを巡らせて、いいことを思い付いた。
「神尾君、忍足さん、」
今にも走り出しそうな二人は、声をかけたら勢いよく振り返ってくれた。
「学校の正門を出て左手まっすぐのところにあるお好み焼き屋さんまで二人で競争。はい、スタート。」
急にふったにもかかわらず、二人はすごい速さで正門に向かった。さすがスピード自慢なだけあるな。もう見えないや。
「よし、じゃあ俺たちもお好み焼き屋に向かうか。」
「はい、橘さん。」
結局どっちが速かったのかなー、なんて少し考えながら、みんなで連れだってお好み焼き屋に向かった。
どっちが速いのか私にはわからないけど、テニスで疲れた後のお好み焼きはきっととっても美味しいはずだ。