アホみたいに爽やかな神尾君
爽やかさ選手権に出たらきっと優勝するんじゃないかってくらい爽やかな人。ちなみに夏生まれ。そんなとこもなんだか爽やか。
それが、私の好きな人、神尾君です。
「ねえ、神尾君。」
「ん、なんだ?」
「今週末、部活?」
神尾君は、んー、とちょっと考えてから答えた。
「日曜は休みだぜ?」
「じゃあさ、一緒に行きたいとこあるんだ!行かない?」
どこ?と聞いてくる神尾君に、自転車で行けるくらいのとこに最近できたスポーツ広場。テニスとかバスケとかバドミントンとかいろいろできるんだよ!と言うと神尾君は目を輝かせた。
「そんなんできてたんだ!おもしろそう。行こうぜ、神崎!」
「うん!」
神尾君とテニスのラリーできたらいいな、なんて、日曜のことを思い浮かべてちょっと顔がにやけてしまった。
そんなワクワクしていた水曜日から早4日。今日は約束の日曜で神尾君と例のスポーツ広場に来ているんだけど、
「はははっ!リズムに乗るぜ!」
「おっしゃー、ダンクスマッシュ!」
「させるかー!」
なんだか、とても、楽しそうです、神尾君。
最初は私とのんびりラリーをしてたんだけど、他校のお友達らしき人たち2人組に会ってから、私はほったらかし。
なんだよもー、今日は私が誘ったのにさ。
「はい。」
「え?」
ちょっと拗ねつつ神尾君を見ていたら、急に目の前に炭酸飲料の缶があらわれた。驚いて顔をそっちに向けると、今神尾君と対戦している人と一緒に来ていた人だった。確か越前君って言ってたっけ?
「暑いから飲んだら?」
越前君は私の隣に腰掛けて、自分も同じものを飲みつつ、もう片方の缶を私の手にのっけた。
冷たくて気持ちいや。
「ありがとう。」
「どーも。」
試合をしている神尾君に視線を戻すと、楽しそうにボールを追いかけながらキラキラと光る汗がなんだかとっても爽やかだった。
桃城君たちに神尾君をとられたみたいな気になって、さっきまでちょっと拗ねてたけど、こんなに近くで神尾君が試合してるとこなんてなかなか見られないよね。ラッキーかも。
せっかくだから一瞬も見逃さずに見てよう、と目に焼き付けるように神尾君を目で追っていると、隣から、くいっと袖を軽く引っ張られた。
「ねえ。」
「なに?」
「テニス、よくするの?」
「んー、たまに、かな?」
「ふーん。伊織はさ、」
「伊織っ?」
さっき会ったばかりの子、しかも男の子に下の名前で呼び捨てにされた、と驚いていると、越前君は軽く首をかしげた。
「何、ダメだった?」
か、可愛い。
「ううん、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけ。」
部活入ってないからこんな可愛い後輩が欲しかったんだよね、なんて思いながらちょっとにやけていると、越前君が片手を私の方に伸ばしてきた。
「伊織、スポーツするなら髪邪魔じゃない?その手首につけてるゴム貸して。結ってあげる。」
「本当?ありがとう。」
なんか後輩っていうより、可愛い弟ができたみたいで嬉しいな、なんて思いながら越前君に髪を結ってもらっていると、テニスコートから神尾君がダッシュしてきた。
「おいっ、越前!」
焦る神尾君とは反対に越前君はクールな笑みを浮かべた。
「何?伊織のことは俺にまかせて、桃先輩とテニスしてきたら?」
「伊織?な、なんで呼び捨てなんだよ!」
「別にいーじゃん。」
「よくねーよ!」
まあまあ可愛い後輩の言うことだからいいじゃない、と仲裁しようとしたら、神尾君に片手を取られて神尾君の胸まで引き寄せられた。
「俺のが神崎のこと好きなんだから、俺より神崎に近づくなっつってんの!」
越前君は、ふーん、そう、とちょっと楽しそうに笑っていたけど、なんだかうまく頭が働かなかった。
え、好き?
神尾君が私を?
うわわわわわ!なんだそれ!どうしよう!
とっさのことでびっくりして固まったまま神尾君を凝視していたら、神尾君は真っ赤な顔をしていた。
「とにかく!そういうことだから!とりあえず、試合終わらせてくる!」
後で、返事聞かせて、と言うと、神尾君はテニスコートに走っていった。
このタイミングで告白とか、なんなんだ神尾君は。
伊武君がよく、神尾はばかだよな、って言ってるのを、そんなことないよ!と否定していたけど、やっぱり神尾君はちょっとばかなのかもしれない。
でもそんなことを思いつつも、好きって言ってもらえたのがやっぱりとっても嬉しくて、顔がにやけてくるのがおさえられなかった。
ちらっとテニスコートをうかがうと、爽やかにボールを追う神尾君が目に入った。
ああ、やっぱり好きだな、なんて思って、熱くほてった顔を膝に押し付けて隠した。