変なとこでがんばる神尾君
バスの中からすっかり暗くなった空を見上げた。
いつもは自転車通学なのに、たまたまバスで通学した時に限って委員会の用事長引くんだからやんなっちゃうよ。
バスを降りてからの暗い道を一人で歩くのって、なんだかこわいよね。
神社の中の近道を通ったらバス停から家まですぐだけど、暗い神社とか通れるわけないし。
今日も遠回りして神社を避けて帰ろう、と思いながらバスを降りると、バス停の近くを歩いていた人に、よっ、と声をかけられた。
暗い道でいきなり話しかけられたことに内心びくっとしつつ姿を見ると、神尾君だった。
「遅いな。今帰りか?」
「うん、ちょっと委員会。」
神尾君も遅いね、と言うと神尾君は、俺はこれこれ、と笑いながらテニスバッグを指差した。
そっか、部活やってる人はいつもこんなに遅いんだ。
「神崎ん家ってどっちだっけ?」
「ああ、ここから見えるよ。ほらあの神社の向こうに見えるマンション。」
神尾君はあー、あれかー、と、私の指差す方向を見た。
「方向同じだな。一緒帰ろうぜ。」
ほら、と言いながら神尾君は神社に入って行こうとした。
いやいや、待とうよ神尾君。目の前の神社すっごく暗いよ。明かり一つもないよ。
神尾君があまりに自然に神社に入って行こうとするものだから、なんだかこわいと言いにくくて、私は曖昧に笑った。
「えっと、私こっちの道通って帰るから、」
「は?家、あれだろ?あの神社の向こうに見えてるやつ。神社抜けたらすぐだぜ?そっちは遠回りだって。」
いやいや、わかってるけどさ、神社抜けたらすぐだなんて、わかってるけどさ!こわいじゃん、神社!暗いじゃん!
神尾君はなんで私が神社を通りたくないのか全くわからないらしく、すごく不思議そうな顔をした。なんだか私だけこわがりみたいで恥ずかしいけど、真っ暗な神社にはやっぱり入りたくないし、私はちょっと小さな声で、神社こわいから、あっちから帰るの、と言った。
じゃあね、とあげかけた片手を神尾君にとられた。
「こわくねーって。俺がいるから。」
神尾君はそのまま、ほら行くぞー、と私の手をひいて神社の中へと足を進めた。
神尾君がいたって出るときは出るんだよ、おばけとかさ!
でもなんでか神尾君の手を振り払う気になれなくて手をひかれるままついて行った。
月あかりに照らされた背中がちょっと頼もしく見えたのは、内緒にしとこう。