神尾君に振り向いてほしい
友達とのランチタイム。女の子が集まると、好きな人の話というのは誰からともなく始まるもので。
今まで黙秘を貫いていた私も、友達からの話しちゃいなさいよ攻撃に負け、ついに白状したのは数十秒前の事。
さっきまでは楽しそうに、そっか、神尾君か、なんて笑っていた友達は、ごめん!と蒼白な顔をしている。たぶん、私の顔の方が大変なことになっている気がするけれど。
「へえ、俺のこと好きだったんだ。」
楽しいガールズトークが固まってしまったのは、まぎれもなく私の後ろから話しかけている神尾君が原因だ。
なんでいるんだ神尾君!そりゃあ同じクラスなのに教室内でこんな話をしていた私が迂闊なのは重々承知だけどさ。でもここ教室の隅っこだし、それに神尾君いつもは昼休みクラスにいないじゃん。
後ろを振り向けずに、申し訳なさそうな顔の友達を見ながら考え事という名の現実逃避をしていたら、神尾君は私の横に移動して顔を覗きこんできた。
「なあ、なんで返事しねえの?」
「、っ!」
返事?神尾君のことを好きかそうじゃないかって?
そんなの好きに決まってるけど、質問に答える=告白じゃないか。こんなにハードル高い質問ってなかなかないよ!
「好きじゃねえの?」
「いや、好き!」
「…ぶはっ。」
「う、わあぁああ!」
神尾君が、好きじゃねえのとかありえないこと聞くから、つい全力で否定ついでに告白してしまった。何やってるんだ、私!
自分の失態が恥ずかしくて頭を抱えて机に突っ伏している私の横で、神尾君はなぜか楽しそうに笑っていた。そんなに私の醜態がおかしいか。でもそんな楽しそうに笑う神尾君も大好きだよこんちくしょー!
「はは、笑ってごめんって。あんまり勢いよく言うもんだから。」
神尾君は、拗ねんなって、と私の頭に手を置いた。
その手の感触に驚いて、私が机から顔をあげると、神尾君はさらに何かを促すように、んで?と聞いてきた。
神尾君の質問には答えたし、他に言うことなんてもうないと思うんだけど。
「好き、だけ?何かねぇの?」
何か?…何か。
そうか、そうだよね。もう好きって言っちゃったんだし、もう一言くらい言っても、ばちあたんないよね。
私は、ぐっと拳を握りしめて、神尾君を見上げた。
「振り向いてもらえるように、がんばります!」
私の真剣な宣言を聞いて神尾君は数秒間ぽかんとしてから、ふはっとまた楽しそうに笑った。
「(付き合ってとかじゃねぇんだ。)ははっ、じゃあ楽しみにしとくわ!」
「うん!」
神尾君はもう一回私の頭をぽんっと軽く叩いてから、じゃあな、と片手をあげて去って行った。
振り向いてもらうためにどうしたらいいかなんてわかんないけど、がんばってたくさん話しかけよう!
さっきの、楽しみにしとくわ、と言った神尾君の楽しそうな笑顔を思いだしながら、よしっ、とまた気合いを入れた。