short | ナノ


水のやりすぎな白石君


「伊織〜、ちゃんと飯食っとるか?」

昼休み、白石君が私のクラスに入ってきた。

「ちゃんと食べてるよ。」

白石君は私の食べているものを覗いて、やれやれというように首を振った。

「アカンで、伊織。おにぎりだけやなんて栄養偏ってまうやろ?しかも少なすぎや。俺の弁当持ってきたから、おかずわけたるわ。」

白石君は私の返事も聞かず、おにぎりを包んでいた包みにおかずをいくつかのせた。

美味しそう。

「美味そうやろ?俺のお手製や!」

ちゃんと食べるんやで〜、と言いながら白石君は自分のクラスに戻って行った。

結局、断りもお礼も言えなかった。

「なんなんだ、白石君は。」

私が白石君のくれたカボチャの煮付けを口に含むと、一緒に食べていた友達に、何をいまさら、と言われた。

「愛されてんねやろ?喜んで受け取っとけばええやん。」

「いや、愛って言うけどね、私付き合ってもなければ、告白されてもないんだよ?」

なのに白石君は、毎日毎日なにかにつけて構いにやって来る。

初めの頃はわけもわからずドキドキしていたが、今ではわけがわからないのは変わらないけどドキドキよりも、なんなんだ白石君は、という気持ちの方が大きくなってしまった。

そりゃあ、全くドキドキしていないと言うと、それは嘘になるけど。

「え、告白されてないん?」

「うん。」

だから、別に私のこと好きとかじゃないんじゃない?と言うと、友達は頭を抱えてうなった。

「確かにわけわからん。」

わけはわからないけど、白石君の作ったおかずはとても美味しかった。





放課後、帰り仕度をしていると、白石君がやって来た。

「伊織、そんな薄着で帰る気か?今日はまだまだ冷えるで。ほら、マフラー貸したるから。」

白石君はそう言いながら、私の首に自分のマフラーを巻き付けた。

あったかい。

「あったかいやろ〜?ほな、俺部活やから!」

またな、と去っていく白石君の腕を掴んでひきとめた。

「私に貸したら、白石君が帰るとき寒いよ?」

だから返すよ、とマフラーをほどこうとすると、白石君にその手を掴まれた。

「伊織がっ、伊織が俺の心配してくれとる!おおきに!でも部活しとったら暑くなるから俺は大丈夫やで!ほなな!」

マフラーを遠慮していたんだけど、あれを心配と言ってもいいのだろうか。

白石君はやっぱり摩訶不思議だ。





次の日の朝、朝練が終わった時間を見計らって白石君の教室にマフラーを返しに行った。

「白石君、マフラーありがとう。あったかかった。」

「せやろせやろ?わっ、冷た!」

マフラーを渡すときに触れた私の手が冷たかったみたいだ。

手先冷たくなりやすいからいつもカイロ持ってきてるのに、今日は忘れちゃったんだよね。

「ごめんね、冷たかった?」

白石君は自分のポケットから何か出すと、私の両手に握らせ、その上から私の両手を包みこんだ。

「あったかいやろ?カイロやるわ。」

ほんで、手の甲側は俺があっためたる〜という白石君に、何故か頬まであったかくなってきた。

「あったかい、けど。」

「あったかいならええやんか。」

「・・・うん。」

白石君の手があったかくてなんだか離して欲しくなかったから、私は素直に頷いておいた。





昼休み、また白石君が私にお弁当を分けに来た。

「白石君、あのね、植物ってね、水をやりすぎると枯れちゃうんだよ。」

だから私にもこんなに構いすぎないで、という意味を込めて白石君を見ると、白石君は綺麗に笑った。

「せやな、伊織が人間でよかったわ。俺がどんだけ愛情注いでも、伊織は枯れへんやろ?」

「え、愛?」

「ん、愛。」

友愛?慈愛?と私が首を傾げていると、白石君は笑いながら言った。

「いまさら何言うてんねん。好きやからこんなに構っとるに決まってるやんか。」

白石君は、ちゃんと俺があげたおかず食べるんやで〜、と言って去って行った。

「好き、だったんだ。」

どうしよう、なんだか、すごく嬉しい。

白石君が言った通りだ、人間の場合、愛情という水のやりすぎでは恋の花は枯れないらしい。

明日白石君に私も好きだと告げよう、と決めながら、そんなことを思った。


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