short | ナノ


白石君の浮気


昨日、恋人の浮気現場らしきものを発見してしまった。

そう報告すると謙也君は、まっさかー、と言って笑った。

「浮気ー?白石が?見間違いちゃう?」

「私が白石君を見間違えるはずないよ。」

「あ、ほな、逆ナンされてつきまとわれてただけとか、」

「いや、白石君笑顔で、女の子が人混みにのまれないようにさりげなくエスコートしてた。」

白石君、逆ナンきらいだって言ってたし、ただの逆ナンだったらそんなふうにしないよね、とつぶやくように言うと、謙也君はさっきまでの笑顔をちょっとひっこめた。

「え、冗談ちゃうん?」

「冗談だったらどんなにいいか。」

私は、昨日寝られなくてクマできちゃったよ、と苦笑しながら目の下を指さした。

「白石とはちゃんと話したん?」

「…なんにも。だって、もしあっちの子を本当に好きになったとか言われたら、私もうなんか無理、ショック耐えられない。」

机にバタッと勢いよく突っ伏すと、謙也君はあたふたしながら私の背中をバンバン叩いた。

「大丈夫やって!あたって砕けえ!」

「うわぁん、砕けたくないよー!」

「なっ、ちゃうって、砕けろっちゅーのは、えっと言葉のあややから。」

謙也君は私が白石君にフラれるって思ってるんだ、やっぱり周りからみたらそうなんだ、なんてへこんでいると、今一番聞きたくないけど聞きたかった声に話しかけられた。

「どないしたん?伊織ちょっと泣きそうやん。俺の伊織いじめんといてやー。」

「アホ、いじめてへんわ!」

「し、白石君っ!」

白石君は少し心配そうな笑顔で、私の目元をハンカチで拭った。

「ほら、もう泣かんと。どないしたん?伊織に泣かれたら俺まで悲しなるわ。」

白石君があまりにいつも通りだから、なんだか涙が出てきてしまった。

「しっ、らいし君、だいすき!本当だいすき!」

もう気持ちがいっぱいいっぱいになってしまって、泣きながら、白石君の片手を両手で掴んで、だいすき、と繰り返した。

「おおきに。俺も伊織大好きやで。」

白石君は私に掴まれていない方の手で私の頭を優しくなでた。

「大好きっていっぱい言ってもらえて嬉しいんやけど、笑顔で言ってくれたらもっと嬉しいな。なぁ、なんで泣いてるん?」

泣いてる理由なんて、白石君が浮気したからに決まってるじゃないか。

「白石君が浮気、した。」

「浮気?」

不思議そうな顔をした白石君に、昨日、駅前、夕方、と途切れ途切れに言うと、しばらく考えるそぶりをしていた白石君は、何かを思い出したのか、急に安心した顔つきで私の頭をくしゃくしゃと撫で回した。

「あー、もう伊織はかわええなー。」

「な、なんでちょっと解決したみたいな顔してるの!私おいてけぼりなんだけど。」

「昨日な、妹と駅前で買い物しててん。」

「…妹?」

「ん、妹。」

白石君は、なんだか情報がうまく頭に入ってこなくて固まっている私の頭を撫でながら、優しく笑った。

「俺が浮気なんてするわけないやん。伊織んことめっちゃ大好きなんやから。もしかしてそれでクマできてるん?」

コクンと頷くと、白石君はちょっと嬉しそうに笑った。

「かんにんな。不謹慎ってわかってんねんけど、伊織が一晩中俺んこと考えてくれてたのがちょっと嬉しくて。」

でも今度からは、白石君大好きー、とか考えてな、と続けた白石君に、そんなのいっつも思ってるよ、と言うと、また嬉しそうに笑ってくれた。

寝不足でちょっとフラフラするし、勘違いですっごく胸が苦しかったけど、白石君のこの嬉しそうな笑顔を見たら、なんだかそういう苦しいものがいろいろ吹き飛んでしまったみたいで、やっぱり、私は白石君が大好きなんだな、なんて改めて実感した。





四天∞企画

シズクさんのリクエストで「白石くんが浮気(勘違い)」でした。

リクエストありがとうございました!


prev next

[ top ]