財前君と甥っ子
今日は光君のお家でまったりデート。
後で一緒にレンタルショップに行ってDVDでも借りようかな、なんてワクワクしながら光君ちのチャイムを鳴らした。
おかしいな、なかなか出てこない。
携帯鳴らそうかな、と思ってかばんの中の携帯を探っていたらゆっくりと扉が中から開いた。
「あ、光君、…え?」
「んー?」
中から出てきたのは、素っ気ない顔をした私の大好きな光君ではなく、可愛らしく首を傾げて私を見上げる小さな男の子だった
「えっと、光君、なの?」
「ひかるー!」
私が光君なの、と問い掛けると、小さな男の子はひかるー、ひかるーと言って頷いた。
そうか、似てるとは思ってたけど、やっぱり光君だったんだ。
どうして縮んじゃったんだ、光君!
しかも縮んだだけじゃなくて、性格も純真無垢になってるし。
いったいどうしたらいいんだ、と小さな光君を前にしてワタワタしていると、小さな光君の後ろから出てきたもう一人の人に、ポカッと叩かれた。
「アホ、光はこっちや、こっち。こいつは甥っ子や。」
「え、光君がもう一人?」
「なんでやねん。甥っ子やって言うてるやろ。」
「光君って聞いたらひかるーって言いながら頷いたから、てっきり光君が縮んだのかと、」
縮んだんじゃなくてよかった、と笑うと、んな簡単に縮んでたまるか、と言ってから、光君はちょっと申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
「あんな、今日兄貴夫婦に子守頼まれてもぉてん。せやからデートでけへんねん。」
光君はひかるー、と言いながら光君の足にしがみついている甥っ子君を抱き上げながら、すまんな、と謝った。
なんか小さい子の面倒みてる光君って、ちょっと新鮮。
「ねえ、私も一緒に遊んでいい?」
光君に抱っこされた甥っ子君に目線をあわせて笑いながらそう言うと、甥っ子君も笑ってくれた。笑顔可愛いな。
「いっしょー!いっしょ!」
「うん、一緒!」
そういうわけだから、一緒にいてもいいかな、と光君に視線を送ると、光君が珍しくちょっと嬉しそうに笑った。
「ええの?」
「甥っ子君はいいって言ってくれてるから、光君さえよければ。」
「そんなん、ええに決まっとるわ。」
抱っこされたまま運ばれていた甥っ子君は部屋に入ると、おろしてー、と言って光君の腕を叩いた。
「ねーちゃ!あれ、つみき、たっくさん!みせてあげる!」
「わあ、つみきたくさんあるんだね。見せて見せて。」
甥っ子君は、うん!と元気に頷くと、部屋のすみのおもちゃ箱らしきものをとりに歩いていった。
「あんな、伊織、」
「なに?」
光君は珍しく言いにくそうに、あー、とか、えー、とか言って、しばらく目線をさ迷わせた。
「ん?」
「えっとな、おおきに。伊織と一緒おれへんって思ってへこんどったから、嬉しい。」
今日は本当に珍しい光君がいっぱいだ。
こんなふうに素直に嬉しいだなんて言ってもらったの初めてかも。
私がちょっとびっくりして光君を見ていると、光君は照れくさそうに私の頭をはたいた。
「へへ、ごめん。私も光君と一緒にいられて嬉しいな。」
つみきを持ってきた甥っ子君の頭にぽんっと手を置きながら、おー、よー持ってこれたな、なんて褒めてる光君と、褒められてちょっとほこらしげな甥っ子君を見て、なんだかすっごくほんわかした気持ちになった。