謙也君とけんか
白石と寄ったコンビニで飲み物を買った。あと、アイスも。夏はやっぱソーダアイスやなー、なんて言って笑っていたら白石がいぶかしげに俺の持っているコンビニ袋をのぞきこんできた。
「ん?こんな暑いんに、いちごチョコ?」
「おーこれは伊織が、」
好きでよく食べとるから、と言いかけて固まった俺とは逆に、白石はほっとしたように笑った。
「なんや、いつの間にか仲直りしててん?」
「いや、えっと…、」
「え、まさかまだけんかしてんの?」
俺が白石から目をそらして、言葉を濁していると、白石はため息をついた。
「まあ、ほどほどにしときやー。」
おん、とへこみながら頷く俺を見て、そっとしといたろーって思ってくれたんか、白石は少し明るい声で話題を変えた。
「そういやさっき謙也がおらんかった時に話しててんけどな、今度部室で流しそうめんするらしいで。」
「は、部室ん中で?外やろ?」
「いや、部室ん中やねん。卓上そうめん流し機買ったはええけど、家で使わへんからって。」
「ぶはっ、卓上そうめん流し機って!誰や、そんなアホなん買ぉたん。」
「千歳やで。」
ほんで、今度持って来るって言ってたわー、と白石がちょっと笑いながら言うもんやから、俺もめっちゃ笑って腹痛なってもた。
「はは、もー、おもろっ、伊織に言ってこよ、…あ、」
アカン、伊織とけんかしとったんやった。
白石の顔が見れんと、空の雲の数を数えるふりして白石から目をそらしたら、白石は呆れたようにため息をついた。
「謙也、自分でわかっとるやろ?」
「…わかっとるわ。」
ほんまはけんかなんて、はよやめたいねん。伊織の好きなお菓子見つけたら買うてってやりたなるし、おもろい話あったら伊織に話して一緒に笑いたいし。
でもなんや意地になってもて、ごめん、の一言が言われへん。
「あんま意地はっとったら、いつの間にか手遅れになってまうで。」
「そんなんいやや!」
白石は、せやったら今なにをすべきかわかってるやろ、と言って笑った。
意地とかはっとる場合やない。俺は伊織と仲よぉしたいんや!
「おおきに、白石!ちょっと行ってくるわ!」
おー、がんばれやー、という言葉を背中で聞きながら、ひたすら走った。
急げ急げ、伊織の家まであと少しや。
メールで、今伊織の家の前におんねんけど、ちょっと出てこられへんって送ると、しばらくして玄関の扉が開いた。
「伊織、」
「謙也?」
どないしよ、出てきてくれた。
「えっと、あんな、これ、さっきコンビニで買ぉてん。伊織好きやったから。」
俺がてんぱりながら差し出したいちごチョコを、伊織は戸惑いながら受けとった。
「えっと、ありがとう?」
「あ、あとな!千歳が流しそうめん買ぉてんて!あ、せやなくて、そうめん流し機や、そうめん流し機!せやけど家で使わへんから今度部室持って来るんやって。ほら、前伊織と、店でそうめん流し機見つけたとき、こんなん誰が買うねんってわろてたやん?いやー、こんな身近に買うやつおったとは驚きやほんま、はははっ。」
アカン、なに言うてんねん、ほんま。
けんかしとったのにいきなりこんなしょーもない話し出すから、伊織びっくりしてもぉとるわ。
「すまん、伊織。なにいきなりしょーもないことで呼び出してんねんって思ってるやろうけど、俺、伊織とまたこうやってしょーもない話して笑いたいねん。ほんまに俺が悪かった!ごめんなさい!」
がばっと勢いよく頭をさげると、伊織は、えっと、あの、とアタフタした。
え、まさかもう心変わりした後?手遅れ?そんなんいやや!
「俺はっ、めっちゃ、めっちゃめっちゃ伊織んことがすっきゃねん!ほんまに大好きやねん!」
伝わってくれー!と、頭をさげながら叫ぶように言うと、伊織がしゃがんで、頭をさげている俺に目線をあわせた。
「私も、めっちゃめっちゃめっちゃめっちゃ謙也君のこと、大好き。」
意地はっちゃって、私もごめんなさい、と続けた伊織の手を引っ張って立たせて、思いっきり抱きしめた。伊織は一瞬びっくりしたあとに、俺の背中に手をまわしてくれた。
あー、伊織や、久しぶりの伊織や。
こんなん手放しそうになってたとか、ほんまアホやな、俺。
もー絶対離したらん、と決意しながら、さらに抱きしめる力を強めた。