愛情表現がストレートな財前君
財前君は不思議な人だ。
なんていうか、うん、不思議な人。
そんなことを考えながら、ぼーっと隣の空席を見ていたら、財前君が席についた。
「神崎、」
「な、なに?」
「なんでちょっとどもってんねん。」
財前君が聞いてきたから、いや、ちょっと驚いちゃって、と言うと、財前君は私の頭にぽんっと手をおいてから、頭を撫でた。
「神崎はかわええな。」
「今のどこにかわいい要素があったかはわからないんだけど、財前君なんかいろいろ大丈夫?」
「ちょっと大丈夫やないかもしらん。」
いつもは、大丈夫に決まっとるやろとか言うから、初めて、大丈夫やないかもっていわれてちょっとびっくりした。
体調悪いの?保健室行く?と聞こうとする前に、財前君は机に突っ伏してうなだれた。
「好きなんに、いつまでたっても、かわええとかの発言流すから、めっちゃへこんでて大丈夫とちゃうわ。」
…、財前君、好きな子いたのか。
別に、私には関係ないけど、でもなんかちょっとモヤモヤする
「かわいいとかいろんな子に言っちゃうからじゃない?」
思ったよりも不機嫌な声が出てしまったから、慌てて笑った。
「財前君、かっこいいんだから、かわいいとか言われたら、みんな照れちゃうよ。」
「え、神崎、照れとったん?」
財前君はちょっとびっくりしたように顔を机からあげたから、逆に私もびっくりしてしまった。
「え、いや、私のことじゃなくて、あの、みんなね。」
「みんなて、なんで?」
なんで、の意味がわからなくて、なにがなんで?と聞き返すと、財前君はもっと不思議そうな顔をした。
「かわええなんて、神崎にしか言うてへんけど。」
「……へ?」
数秒間思考がとまってしまった。
え、いや、どういう意味だ。
好きな人に可愛いって言っても流されてへこんでて、でも可愛いってのは私にしか言ってなくて。
「いやいや、私だけじゃないよね。私と、その好きな子、少なくとも二人には言ってることになるよ。」
私がそう言うと、財前君はへこんだような、愛しそうな、なんとも言えない顔をした。
「財前君?」
「結構ストレートに言っとるつもりやねんけど、なかなか伝わらへんな。」
なにが、と問いかける前に、財前君に私の手をとられた。
「好きやねん、神崎が。かわええとか言うのも、こんなふうな構うのも、神崎だけやねん。」
あまりにびっくりして、財前君に手をとられたまま固まっていたら、財前君は眉を少し下げて笑った。
「さすがにこれでも伝わらへんとか言われたら、ちょっとへこむどころやあらへんわ。」
財前君はそう言ってから、また愛しそうに笑った。
「まあでも、神崎はそういうちょっと鈍いとこもかわええやんな。」
「、っ!」
私は財前君に手をとられたまま、机に突っ伏した。
なんだこれ、おかしい。可愛いなんて、財前君には言われ慣れてて、照れたりなんてしたことなかったのに、なんだか財前君の顔が見れない。
そんな私を見て、ちょっとは意識してくれるようになったん?と呟く財前君に、ちょっとどころじゃないよ、ばか、と小さな声で返した。
なんだかいつもの自分じゃないみたいで恥ずかしくて、意識なんてしてない、照れてない、なんて言おうかとも思ったけど、私の頭を撫でながら笑う財前君の笑い声がすごく嬉しそうだったから、黙って撫でられておいた。
頭を撫でる財前君の手は、すっごく優しかった。