白石君と迷子
今日は伊織と遊園地デート。
絶叫マシーンで軽くフラフラしている伊織に飲み物を買って渡していると、一人で周りをキョロキョロしている子どもが目に入った。
「ぼく、どないしたん?迷子?」
その男の子は俺が話しかけると、一瞬ほっとしたような顔をしたあとすぐにぷいっと横を向いた。
「ちっげーし!迷子じゃねーよ、アホ!」
どないしよ、ほっとくわけにもいかんし、と困っていると、伊織がかばんをゴソゴソ探りだした。あ、さっき俺が伊織に買ぉたったくまのパペットや。
伊織はそのくまのぬいぐるみのパペットを動かしながら、しゃがんで男の子に目線をあわせて話しかけた。
「ぼくの名前は白石くまじろう!」
ぶっ、
吹き出すのをなんとかおさえた。
くまじろう、て。しかも苗字白石なんや。
「くま、じろう?」
「うん!君のお名前は?」
「すずき、かなめ。」
おお、凄い。俺なんて目もあわせてもらえへんかってんに、ちゃんと会話できとる。
「かなめ君か!いい名前だね。」
「へへっ、ありがとう。」
おっ、生意気なんかと思ったけど、わろたらかわええやん。
「かなめ君のお父さんとお母さんがつけてくれたの?」
「うん!お母さんが!」
「素敵なお母さんだね、ぼくも会ってみたいなー!」
「…。」
「どうしたの?」
どうしたの、って言いながらくまの首をコテンとかしげる伊織がめっちゃかわええ。
男の子は少し言いよどんでから口を開いた。
「迷子じゃねーけど、今お母さんどこいるかわからねー。迷子じゃねーけど。」
きっと迷子って認めるの恥ずかしいんやろな。
「お母さんどこにいるかわからないなら、呼んじゃえばいいんだよー!」
「できるの?」
「うん、こっちについてきて。」
小さいくまの手に男の子の手を掴ませ、伊織は迷子センターに向かった。
男の子の名前がわかっていたおかげか、放送をかけたら男の子のお母さんはすぐに来てくれて、男の子は、ありがとうな!と大きく手を振りながらお母さんに手をひかれ去って行った。
「お母さん、すぐ来てくれてよかったね。」
「せやな。」
俺が伊織を見ながら微笑むと、伊織は不思議そうに笑いながら首をかしげた。
「どないしたん?」
「なんか蔵が、幸せそうな?嬉しそうな顔してたから。」
「んー、いや、」
笑いながら言いよどんでいたら、伊織が、何?言ってよー、と笑った。
「伊織、子どもできたら、ええオカンになんねやろなー、って思って。」
伊織はきょとんとした顔をしていたけど、そのまま続けた。
「もちろん、俺との子な?」
伊織は一瞬びっくりしたみたいだったけど、すぐに嬉しそうに笑った。
「へへ、蔵との子ども、かわいいんだろうなー。」
「伊織に似たらええなー。」
近い未来、3人でまた遊園地に来るのを想像して、胸があったかくなった。