short | ナノ


好きな子に怯えられる一氏君


小春と神崎は仲がええ。

せやけど神崎は、小春と笑顔で話しとっても、俺が近づいたら、いつも黙る。しかもただ黙るだけやなくて、なんや怯えたみたいな顔をする。

初めは気のせいかと思っとったけど、同じクラスになってから早数ヶ月。さすがに俺の気のせいやないと気づいた。

「なあ、小春、なんやねん神崎。俺がなにしたって言うねん。」

今は教室におらん神崎を目で探しながら小春にぐちった。

「ユウ君真顔がこわいねんて。ほら、わろてみー。」

「一回小春がおらんときにわろてみたら、もっとひきつった顔されてんけど。」

「あ、伊織ちゃんの前でわろたことあったんや。まあでもいっつも真顔な人がいきなり自分に笑いかけてきたらちょっとこわいかもね。ほな、なんか親切にしてみたら?ユウ君女の子になんか頼み事されても、はあ、そんなん自分でやれって切り捨てるやん。」

「こないだ担任に頼まれて重いもん運んどったから、手伝うでっていったら、めっちゃ必死に拒否られてんけど。」

「…それは、まあ、なんというか、」

小春は一旦口を閉じてから、しみじみと言った。

「ユウ君、めっちゃこわがられとるね。」

「せやからはなっからそう言うてるやん!」

小春は、やあ、まさかそこまでとは思わんくって、と笑ったけど、笑えへん、全く笑えへん。

「まったく、なんでこんなこわがられなアカンねん。」

俺が不機嫌そうにそう言うと、小春はちょっと不思議そうな顔をした。

「てかユウ君珍しいな。いっつもは女の子にこわがられても気にせぇへんのに。」

「やって神崎、小春と仲ええし、」

「ん?アタシなら伊織ちゃんだけやなくて、クラスの女の子みんなと仲ええよ。」

あ?そういえばそうやったかも。せやけど、

「なんや、めっちゃ俺の目んなか入ってくるし。」

小春は驚いたようにちょっと目を見開いてから、ゆっくりと言った。

「それ、ユウ君が目でおっとんのとちゃう?」

…へ?

目で追う?俺が神崎を?

いやいや、まさか。やって小春と仲ええから気になってただけやし。

や、小春はクラスの女子みんなと仲ええって言うてたやんな。

せやけど、小春と話してんのがっつり見たことあるん、神崎だけやんな。

てか、小春とおらんときも、よお目んなか入ってくるよな、神崎。

小春と俺は、互いに無言で顔を見合わせた。

「…ユウ君、」

「小春言わんといて、自分で気づいてへこんでるから。」

目で追ってまうほど気になってんのに、相手からはめっちゃこわがられとるとか、うわもうめっちゃへこむ。

机にうなだれていたら、頭上から明るい声が聞こえた。

「小春ちゃん、購買行ったらポッキー新商品出てたよ。はい、一本どうぞ!」

「まあ、おおきに。」

神崎や。

いつもは俺がおったら小春に話しかけへんから、きっと机に突っ伏してうなだれている俺を見て、寝てると思ったんやろな。

よっしゃ、気合い入れぇ!と自分を奮い立たせてから、顔をあげた。

俺が起きたのを見て、神崎は、じゃあまたね、と立ち去ろうとした。

「ちょぉ待てや。」

「ひっ、」

アカン、気合い入れたからか思ったよりドスのきいた声が出てしまった。

「…ちょっと、待ってくれへん?」

「わ、声本当に変わった!」

なんとか柔らかく呼び止めようと、知る限り一番ソフトな白石の声を真似て呼び止めたら、神崎はびっくりしたようにキラキラした目で振り返った。

白石の声で振り返ったっちゅーのがなんかしゃくやけど、まあ結果オーライや。

俺は自分の声に戻して、神崎に聞いた。

「なあ、なんで俺のことこわいん?」

アカン直球すぎた。

こういうとこがこわいって思われんのかな、と軽くへこんでいると、神崎はおそるおそる口を開いた。

「小春ちゃんと、仲良くしたいんだけど、小春ちゃんと話してたら一氏君にらんでくるから。あと、気づいたら小春ちゃんいないときでも、よくにらんでくるから、一氏君は私と小春が仲良くなるのいやなんだ、と思って身構えちゃうんだ。」

普通に見てただけやのに、真顔やったせいで、にらんでたって思われててんや。ほな笑いながら見ぃっちゅーんか。せやけど、ニヤニヤしながら見られとたらそれはそれでキモいやろ。

「にらんでへん。」

「え?あ、そうなんだ。」

「小春と仲ええんも別に嫌とちゃう。」

「本当?よかった。」

「せやけど、俺とももうちょっと仲よぉしたって。」

「うん?」

神崎は不思議そうやったけど、一応うなづいた。

にらんでへんことも言ったし、誤解も解いたし、とりあえず、これで怯えられることは、へるはずや。おん、きっとそうや。

「えっと、一氏君も食べる?新味のポッキー。」

ちょっと戸惑いながら差し出してきた箱から、一本もらった。

おおきに、と言って笑うと、一氏君が私の前で笑ったの初めて見た、と神崎も笑った。

笑ったの初めて見たとか、こっちの台詞やし。

今は仲良しの小春の友達の一氏君っていう認識やろうけど、ぼちぼち仲よぉなって、そのうち神崎の中で、小春より俺の存在をおっきくしたろー、って思った。





四天∞企画

かなめさんのリクエストで「一氏→女主で切ない話」でした。

リクエストありがとうございました!


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