黒子君を目で追う
気がついたらそこにいて、また気がついたらいなくなってる黒子君。
本当、不思議な存在感。
ずーっと見てたら見失わなくなるかな、なんて思って、何度も見失いながらもずっと目で追っていたら、今ではもう見失うことはほとんどなくなった。
でもその変わり、
「…がっ!」
「わっ、伊織何してんの、前、壁!壁!」
黒子君に気をとられすぎて、壁とかにぶつかることが多くなった。
ぶつけたおでこと鼻をさすりながら、痛い、と言っていると、友達に呆れたようにため息をつかれてしまった。
「もう、伊織、最近ぶつかりすぎ!気をつけなさいよー。」
りょーかーい!と言ってから黒子君に目線を戻すと、なんだか一瞬視線があった気がした。
まあ、気のせい、かな。
私がなんとなく一方的に気になって目で追ってるだけで、黒子君からしたら、ただ隣の席の人って認識だろうし。
隣の席になったときに、これから黒子君を見失わないようにずっと見てるねって言ったら、そうですか、って流されたもんね。
今思うと変なこと言っちゃったけど、まあ、過ぎたことはしょうがないよね。
「私図書室寄ってくから、先帰ってて。ちゃんと気をつけて帰りなよ。もうぶつからないでね。」
「心配性だなー。大丈夫だって。またね。」
友達が図書室に入っていくのを見届けて前を向くと、さっきまで少し離れたところにいた黒子君が私の目の前にいて、私をじっと見ていたから驚いた。
「最近、よくいろんなものにぶつかってますね。痛くないんですか?」
「痛いよ。」
「以前僕を見失わなくなるようにするって宣言してましたが、そのせいですか?」
黒子君、あれ覚えてたんだー、と笑うと、隣の席になったと思ったらいきなり宣言されて少しびっくりしたので、と読めない表情のまま言われた。
あの時は普通に、そうですか、とだけ言われたから、全然気にしてないのかと思ってたけど、そっか、びっくりしてたんだ。
「もうほとんど黒子君を見失わないようなったんだけどね、逆に他のもの見失うようになっちゃった。」
ははは、と笑うと黒子君はふぅっと一息ついた。
「僕は別にいなくなったりするわけじゃありませんから、ちゃんと前を見ていて下さい。」
せっかく見失わないようになったのに、とちょっと残念に思っていたら、ぶつかったら痛いでしょう。気をつけて下さい、と黒子君に言われてしまった。
「心配してくれたの?」
黒子君と珍しくたくさん話せたのが嬉しくて、冗談っぽく笑いながら聞くと、黒子君は一瞬驚いたような顔をしてから、ふわっと笑った。
「そうですね、心配なので、ちゃんと前を見て下さいね。」
その笑顔と台詞に硬直してしまった私を置いて、では、部活があるので、と黒子君は去って行った。
黒子君に他意がないのはわかってるんだけど。
わかってるんだけど、なんか、恥ずかしい!
今まではなんとなく興味本位から目で追っていただけだったのに、これからはさらに黒子君から目を離せなくなってしまうような、そんな気がした。
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