財前君に嫉妬
雨のせいで外あんま出たないし、今日は伊織と二人、部屋でのんびりテレビ。
時計を見たら、ちょうど見たかった音楽番組がはじまる時間だった。
「ん、チャンネル変えてええ?」
「いいよ。なにか見たいのあったの?」
「今日のミュージックloverのゲスト、好きな歌手でんねん。」
まだあんまメジャーやないから、テレビでんの珍しいねんで、なんて言いながらチャンネルを変えた。
伊織は最初は楽しそうに、わっ綺麗な人だね、とか、高音すごく綺麗、とか言っていたのに、それに俺が適当に相槌を打っていたら、だんだん機嫌が悪くなっていった。
「どないしたん。」
相槌が適当なのなんていつものことやん、と思いながら伊織を見ると、不機嫌そうな顔でそっぽを向いた。
「別になんでもない。そんなに好きならずっと見てればいいじゃん、私になんてかまわないでさ。ほら、CM終わったよ。」
ああ、なるほど。テレビの歌手に妬いたんか。
別にテレビの中の奴と会話できるわけやないのに、こんなことで嫉妬すんねやな。
…いや、こんくらいで嫉妬するくらい、俺が不安にさせてたんか。
俺はチャンネルに手をのばして、そのままテレビの電源を切った。
「え、なんで…?」
何も言わずに黙っていると、怒ってると勘違いしたのか、伊織はアタフタしはじめた。
「ご、ごめん、見てていいから、」
「見ん。」
「え、でも見たかったんでしょ?」
アホやな。妬くくらい不安なら、もっとわがままになって、ずっと私のこと見てて、とか言えばええのに。
嫉妬してもわがままになりきれない伊織がなんだか愛しくて、座ったままぎゅっと抱きしめた。
「伊織見とるほうがええわ。」
「…ほんと?」
「ん。」
伊織の不安なんて、全部拭ってやりたいのに、なかなかうまくいかへん。
まあそれでも、俺はこの手を離すつもりはあらへんし、伊織も俺にぎゅっとしがみついてるし。
これはこれで幸せなんかもな、なんて思った。