白石君とけんか
「蔵君、なんだか最近疲れてない?」
そう伊織に聞かれたのは、二日前の帰り道。
いつも通りの笑顔で、んなことないで、と言ったら、なんでか伊織を怒らせてしまった。
伊織曰く、蔵君はいつも一人で抱えこむよね、らしい。
そんなことないで、そんなことあるの、の応酬がしばらく続いたあと、伊織は泣きそうな声で少し語気を強めた。
「そんなに、一人で抱えこみたいなら、一人でいたらいいよ。もうしばらく会いに来ないで。私も電話もメールもしないから。」
別れ際に伊織が見せた寂しそうな顔が脳裏から離れへん。
しばらくって、どんくらいなんやろ。
いつになったら伊織に会いに行ってええんやろ。
もう二日も伊織と会っとらん。
あー、なんかもうアカン。フラフラしてきた。
もう限界や、と思って伊織の教室に向かった。
「伊織。」
教室に行く途中の階段で、伊織を見つけた。
「…、蔵君?」
まだ怒ってるんやろか、とかいろいろ思っとったのに、伊織の顔を見たら、つい倒れ込むように伊織に抱き着いてしまった。
「えっ、蔵君?大丈夫っ?どこか悪いの?」
伊織のあたたかい体温と、心配そうな優しい声を聞いて、強張っていた体の力がだんだんゆるんできた。
「伊織、」
「うん、なに?」
「伊織不足で、もう限界。会うのなしとか、もう無理や。」
伊織の肩に顔を埋めながらそう言うと、伊織は、一瞬黙ってから口を開いた。
「怒ってたわけじゃなくて、無理してほしくなかっただけなの。意地はって、ごめんなさい。」
そっか、怒ってたんやないんや。心配してくれてたんや、とホッとしながら、俺は続けた。
「無理してるわけやないねん。強がって疲れてへんって言ってるわけでもないねん。ただ伊織と一緒におったらそれだけでめっちゃ元気でてくるから、せやから俺にとって無理って言ったら、伊織に会えへんかったこの二日間のことやな。」
「なに言ってるの、ばか。」
照れたのか、ちょっと笑いながら伊織はそう言った。
だってほんまやから、と笑うと、伊織もため息を一つついて優しい顔をした。
「じゃあ、蔵君に無理させないように、そばにいるね。」
「おん、頼んだで。」
伊織はそろそろ離してほしそうだったけど、二日ぶりの伊織の体温を離したくなくて、俺はさらにぎゅっと伊織を抱きしめた。