謙也君とプリクラ
友達とこないだ撮ったプリ画像を携帯の待受にしていたら、謙也がのぞきこんできた。
「うっわ、別人やん!」
「プリなんてこんなもんですー。女の子紹介したるとか言われてプリ見せられても、信じたらアカンで。」
私が笑いながらそう言うと謙也は、女子こっわ、と言いながら楽しそうな目でプリを凝視していた。
「なんなん、撮りたいん?」
「おん!なんかおもろそうやん!」
俺も肌めっちゃ白なる?睫毛バサバサなる?とキラキラした目で見てくる謙也がおもろくて、あとちょっと可愛くて、ふいてしまった。
「あー、なんわろてんねん!」
「ごめん、ごめん。ほな今からプリ撮り行く?」
「ええん?行く行く!」
学校からちょっと自転車で行ったところにあるプリ館に着いて、自転車を停めた。
「ほな、ここのプリ館、男子禁制やから女の子の振りしてな。」
私がプリ館の前に貼ってある、男子禁制のマークを指差しながら言うと、謙也は後ずさった。
「はっ、なんでそんなことせなアカンねん!いやや、俺、もう帰、」
ここで帰らせたらおもんない!
ちょっとしおらしく俯いた。
「そっか、ほなしゃーないな。謙也とプリクラ、とりたかってんけどな。」
ちらっと謙也をうかがうと、謙也は、ぐっと拳をにぎりしめていた。
「よっしゃ、女の振りでもなんでもしたろ!」
のせやすいというか、優しいというか。
「おおきに!ほな頭にこのリボンつけてな。」
「え、ちょ、変わり身速過ぎへん?てかなんやねん、この中途半端な女装。リボンだけとか、ほとんど変わらへんやんけ!」
なかなか受け取らない謙也の頭にに、ええから、ええからと言って、大きなリボンをつけた。
「ぷふっ、似合っとるで、謙也。」
「やかましっ!とにかくはよ撮るで。」
謙也は開き直ったのか、リボンをつけたままプリ館に入って行った。
「めっちゃたくさんあってどれがええんかわからんわ。」
「んー、ほなこれにしよ。」
適当にすいてる機械に入ったら、リボンを周りに見られる心配がなくなったからか、さっきまでの「プリおもろそう」的なテンションに戻っていた。
「うわ、肌の白さめっちゃ選べるやん。いっちゃん白いんにしよや!」
「ん、謙也の好きなんでええで。」
「わっ、メイクめちゃ盛りとかナチュラルとかいろんなモードあんねんな!なんにする、なんにする?」
「めちゃ盛り、ほんまに目ぇクリンクリンなるで。可愛いか可愛くないかで言ったらちょっと微妙やからいつもはナチュラルが多いけど、」
「おもろそうやな!盛っとこ!」
「言うと思ったわ!」
いちいち楽しそうに選ぶ謙也につられて、こっちまで笑ってしまった。
『画面のモデルと一緒のポーズで可愛く撮ろうね!』
「うわっ、機械しゃべった!」
「ほらほら、真似るで!」
「おう、真似たモン勝ちや!」
「ぷふっ、それ謙也のんちゃうやん。」
次々に変わるモデルのポーズを真似ていたらもう撮影は終わっていた。
『隣のらくがきコーナーに移動してね。』
「よっしゃ、伊織行くで。スピードスターや!ってあれ、うまく書けへん。」
気合いを入れてペンを動かすものの、謙也の画面には点しか書けていなかった。
「ぶっ、謙也、速過ぎてモニターに反応されてへんやん。」
「あ、スピードスターをばかにしたな、こうしてくれるわ!」
笑っていると、謙也はコツを掴んだのか、ペンをさっきよりゆっくり動かして、笑いながら豚鼻のスタンプを押していた。
「うわっ、なに私に豚鼻つけてんねん!お返しやっ!」
「ぶはっ、なんやねん、そのキラキラ目!昭和の少女漫画か!」
笑いながらたくさんらくがきして、出来上がったプリを受け取り口から取った。
「はい、こっち謙也の分。」
「ん、よくとれとるな!ぶはっ、伊織豚鼻よぉ似合っとるわ!」
「謙也かてキラキラ少女目、よぉ似合ってるわ!てか字ぃへったやな、名前読まれへんわ!」
「あのペン、字書きにくいねんもん。」
「プリ、また撮ろうな。」
「おん、でもでっかいリボンは勘弁してや。ほら、他にも男子普通にたくさんおるやん。男子禁制て冗談なんちゃうん?」
謙也は仲良さそうにプリを撮っているカップルを見ながら言った。
「ああ、アレはええねん。」
「ん、どういう意味なん?」
「男子禁制やけど、カップルやったら入ってええねん。せやから今日謙也がここ入れたんはリボンのおかげやなくて、私とカップルに見えたからやね。」
謙也は一瞬きょとんとしたあとに恥ずかしそうに目線をずらした。
「あー、謙也照れとるー。」
「うっせ、照れてへんわ!」
手元のプリクラの中の謙也と私は二人ともはアホ面で笑えたけど、すっごく楽しそうだった。
「また撮ろうな!」
私がそう言うと謙也はちょっと照れくさそうなままニカッと笑った。
「おん!」