short | ナノ


謙也君の勘違い


今朝の目玉焼き、なんと双子卵やった。幸先ええな。なんか今日の俺の勘は、めっちゃ冴えとる気がするわ。

午前中の部活の時にそう言ったら、財前に鼻で笑われたけど、んなこた気にせん、気にせん。まあ、腹は立つけどな。

そんなことを思いながら、部活の帰り、いつもとは違う道で帰ってみた。

勘の冴えとる俺や!きっとなんかええもん見つかるやろ!

「って、伊織やん!」

「う、謙也君、」

わー、休日に伊織に会えるなんてついとるわ。この道通ってよかった、なんて気楽なことを考えとる俺とは反対に、伊織はちょっと様子がおかしかった。

なんや眉間にしわよっとるし、早く立ち去りたそうやし、頬にアイスノンあてとるし、…てか、ほっぺためっちゃ腫れとるやん!

「伊織、どないしたんや、それ!」

「や、えっと、」

「いや、なんも言わんでええ。暴力なんて最低やな。誰や、誰にやられたんや。はっ、もしかして、彼氏か!アカン、そんな暴力男、はよ別れてまい!」

俺が一息でそう言うと、伊織は軽くうつむいて肩を震わせた。

な、泣かせてもた!

「す、すまん!でもな、俺伊織好きやねん!せやから、」

「ぷはっ、はは、」

「…伊織?」

顔を覗き込んでよく見ると、伊織は泣いてるんやなくて、笑いをこらえとった。

「暴力男て…、ははっ、ていうか、彼氏、いないし。」

「…へ、ほんま?」

伊織はアイスノンを頬にあてて話しにくそうにしたまま、小さく口を開けて、また話した。

「親知らず、抜いたの。麻酔で話しにくいし、腫れてて恥ずかしいから、早く帰りたくて。」

止血のガーゼ外れちゃうから、笑かさないで、と笑いを堪えながら言う伊織は、暴力男に悩むそれには到底見えなかった。

「うわっ、勘違い、恥ずっ!」

何が、今日の俺は勘が冴えとる、や!全然やんけ。

しかもどさくさにまぎれて告白してもたし、俺のアホ。

「でも、ありがとう、心配してくれて。」

「いや、ええねん。歯抜いたばっかでフラフラせぇへん?送ってこか?」

俺がそう言うと、伊織は小さく首を横にふった。

アカン、これ完璧、フラれるんちゃう、とさらにへこんでうなだれそうになった俺に向かって、伊織はちょっと笑って、小さく口を開いた。

「好きな人に、腫れた顔、あんまり見て欲しくないから。」

「えっ?」

「またね。」

「お、おん、またな!」

アカン、にやけそうや。

勘は冴えとらんかったみたいやけど、今日この道通ってよかった!


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