財前君の好きなもの
テレビで歌っとるこいつ、俺の幼なじみや、なんて、別に周りには言ってへんけど。
昔は、待って待って、って言いながら俺の後ろをついて回っとったんが、今はこんな大活躍やなんて、なんか信じられへんな。
「光君!久しぶり!久しぶりに帰ってきたよ!…、って、うわぁ、なんでこないだの歌番組見てるの。なんか恥ずかしいから目の前で見ないでよ。」
伊織はテレビを消すと、改めてめっちゃ笑顔で俺を見た。
「光君、ただいま!」
「…、ただいまて、ここ、自分ちちゃうやろ。俺んちや、俺んち。」
なんて言いつつも、久しぶりに会えたんが嬉しくて、顔がにやける。
伊織もそれがわかっとるんか、俺の辛辣な言葉にへこむ気配は一切なく、嬉しそうに笑っとった。
「じゃじゃーん!ライブツアーのおみやげ!各地の持ち帰りぜんざいだよ。一緒食べよ。」
伊織はそういいながら、食べる準備をしとった。
「別にお土産とかいらへんのに。てか、なんで、いつもぜんざいなん?」
俺がため息をつくと、伊織は手を止めて、キョトンとした顔で俺を見た。
「え、だって光君ぜんざい好きって昔言ってたから。」
伊織の言葉を聞いて、今度は俺が驚く番やった。
「は、昔言ってたって、…言ったか、そんなん?」
「すーっごく前だから忘れてるんじゃない?私は絶対忘れないけどね。だって、光君が、自分の好きなものをちゃんと言葉で教えてくれたの、初めてだったから。いっつも、まぁまぁやなとかで流すんだもん、光君。もっと光君の好きなもの知りたいのにさ。」
ちょっと拗ねたような伊織がなんだかおかしくて、笑いを堪えて口を開いた。
「ぜんざい、好きやで。」
「うん、知ってるよ。」
「テニス、好きやで。」
「ふふ、そうだよね。」
「伊織の歌う歌、好きやで。」
「えっ、本当?へへ、ありがとう。」
「あとな、伊織、好きやで。」
「…へ?」
伊織は、へ、という顔で固まったまま、顔をだんだん赤くさせた。
「何固まってんねん、アホ。ぜんざい食べんねやろ?はよ食べるで。」
「え?えっと、うん、そうだね!」
伊織はそう言いながらも、さっきの俺の言葉が気になるみたいで、ぜんざいを食べながらも、ちらちらと俺を見ていた。
「何見てんねん。」
「えっ、いや、だって光君が、」
「伊織が好きなもの教えて欲しいって言ったから教えたったんや。4つしか言うてへんねやから、忘れるんやないで。」
そう言ってから軽くでこぴんをすると、伊織はようやく笑顔になった。
「へへっ、うん、ちゃんと覚えとく!あとね、私が好きなのは光君だから、光君も覚えといてね。」
「知っとるわ、そんなん。」
思ったよりも、声に嬉しさが出てしまって、ちょっと恥ずかしいとも思ったけど、それを聞いた伊織は、本当に嬉しそうに笑ったから、まぁええかって思って、俺も笑った。