手を繋ぎたい謙也君
せっかくのお休みだから出かけよう、なんて意気揚々と家を出たのはいいけど、ただいま絶賛後悔中。
右を見てもカップル、左を見てもカップル。
「なんなの、このカップル率。」
「ほんまやで。」
「ねー、…って、謙也君?」
いつの間にか謙也君が隣にいて驚くと、謙也君は、おう、驚いたやろ、と言ってにかっと笑った。
「驚くよ。もう、普通に声かけてくれたらよかったのに。」
「すまんすまん、なんか声かけるタイミングつかめんくて。」
「いつ見つけたの?」
「えっと、…本屋。」
そっか本屋か、…って、え、本屋?
「本屋出たの、だいぶ前なんだけど、」
「ストーカーちゃうで!声かけるタイミングはかっとったら、たまたま、こんなことなっただけや!…、て何わろてんねん、伊織!」
なんだかすごく必死な謙也君がおかしくて、つい笑ってしまった。
「はは、ごめん、ごめん。なんか買い物付き合うから許してよ。」
ちょうど暇だったし、謙也君と一緒だったら楽しそうだな、なんて思って笑いながらそう言うと、謙也君はまたにかっと笑った。
「ちょうど暑くて喉かわいててん。どっか入ろやー。」
「ん、私も喉渇いてた。」
ほなよかった、と笑って歩き出した謙也君の隣を歩くと、謙也君は周りを少し見回した。
「にしても、ほんまカップルばっかやな。皆して手ぇ繋いどるわ。なんなん、ここデートスポットやったん?」
「さー、どうなんだろう。ていうか、手繋いで暑くないのかな?」
謙也君は、んー、とちょっと考えてから、私の手をとった。
「暑くても、繋ぎたいんやない?俺も、そうやし。」
謙也君は照れたように笑ってそう言うと、私の手を握ったまま、歩き出した。
手が、暑い。
でもそれより、なんだかほっぺたが熱い。
「…、私も、そうみたい。」
小さな声でそう言うと、謙也君は、またにかっと笑ってくれた。
やっぱり、この笑顔好きだな、なんて心の中で思った。