財前君と席替え
今の席は本当に最高の席!
だって、財前君の真後ろの席だから。
授業中も、休憩時間も、前を向いただけで自然に財前君が見られるんだよ、もう最高だよね。
1ヶ月前のくじ運に本当に感謝だよ。
「んー、ほな、席替えすんでー。」
「席替えっ?」
いきなりそんなことを言い出した担任にびっくりして、つい大声で聞き返してしまった。
「なんや、神崎席替え嫌なんかー?あ、さては隣好きな奴やったんやろ?山田か?鈴木か?」
ちょっと先生何にやにやして変なこと言ってるんだ。てか、山田君と鈴木君、そんな照れないで!誤解なのにこっちまで恥ずかしくなるから!
「はよ席替えしましょーや。」
財前君の冷静な一言で、先生は、せやなー、とくじの箱を教卓に置いた。
「ほな、はじから適当にくじひいてってやー。」
なんか、寂しいな。
私は財前君を見つめられるこの席から離れるのがいやなのに、財前君は今の席に全然未練ないんだろうな。
まあ、クラスの真ん中だし、後ろの方の席でもないし、そんなにいい席じゃないよね。
私にとったら最高の席だったんだけど、と思いながら小さくため息をつくと、財前君がくるっと椅子ごと振り返った。
「なんやお前そんな田中が好きか。」
「え、いや違うよ。」
「ほな、鈴木か。」
「えっと、違うよ。」
「ほな、山崎か。」
「えっと、」
違うよ、と言おうとしてかたまった。
待って、待って待って。
今、左右隣の田中君と鈴木君を好きなわけじゃないって言ったから、後ろの席の山崎君まで否定したら、消去法で前の席の財前君が好きってばれちゃわない?
どうしよう、なんて言おう、と焦っていると、財前君の眉がちょっと下がった。
「…次も、山崎の近くなれたらええな。」
財前君はそのまま前を向こうとしたから、とっさにそでを掴んで引き止めた。
財前君に、財前君を好きだって知られるのは、恥ずかしい。
でも、別の人を好きだって勘違いされるのは、もっといやだ。
「財前君が、」
「俺がなんや?」
「財前君が好きだから、財前君を見つめられるこの席が、好き、なんです。」
だんだん声も小さくなっちゃったし、目線も下がっちゃったけど、なんとか言えた。
財前君は前に向き直らずに、無言で私の方を見ていた。
無言がこわい、財前君の無言の視線がこわいよ!
腹をくくって、視線を少しあげて財前君の顔をうかがった。
「え、」
「っ、いきなり見んなや、アホ。」
財前君は目があうとすぐに、横を向いた。
え、財前君、顔、赤い。
1ヶ月財前君を後ろから見てきたけど、こんな財前君は初めてだった。
そのままじっと見ていると、財前君はちらっと視線だけ私に戻した。
「前後の席やったら俺は顔見えへんから、次は隣がええ。」
財前君はそれだけ言うと、前に向き直った。
「私も、隣がいいな。」
小さく呟いた声は、財前君にちゃんと届いたらしく、財前君は前を向いたまま、おん、と言ってうなずいた。
その声は、なんだか嬉しそうだった。