一人じめしたい幸村君
最近、俺はよくジャッカルのクラスを訪ねる。
あの子が、よくジャッカルに会いに来るって知ったから。
「ジャッカル、助けて!」
ほら、今日も来た。というか、ジャッカルの隣の席に(勝手に借りて)座っている同じクラスの俺のことは完全スルーって酷いよね。いつものことだけど。
「神崎、今回はどうしたんだよ?」
「英語!こんなにプリント出されたの。明日までとか無理無理終わんない!」
「…それ、お前が授業中寝てたからだろ?自業自得。」
ジャッカル、なんでクラス違うのに、神崎が授業中寝てたこと知ってるんだよ。神崎のことならなんでもわかるぜ、ってこと?なんかそれって腹立つ。
「うっ、それは、そうなんだけど、」
「はぁ、しょうがねぇな。昼休み教えてやるから、次からは寝んなよ。」
「ありがとう、ジャッカル!自習室D借りてるから、昼休み待ってるね!」
「は?もう借りてるって、…お前、初めから俺が断らないと思ってただろ、って、もういねぇし。」
ジャッカルは呆れたようにため息をつきながらも、なんだか楽しそうだった。
「ねぇ、ジャッカル。」
「ん、なんだよ。」
「今日の昼休みさ、俺が行くよ。」
「え、いや、なんでだ?」
ジャッカルは本当にわけがわかってないみたいだった。
神崎がよくこのクラスに来るから、俺が先回りしてこのクラスによく来てるだなんて、知らないんだろうね。
「神崎ね、俺と同じクラスなんだ。なのに、俺よりジャッカルを頼るって、なんだか酷いと思わない?だからさ、俺が行くよ。」
「え?まぁ、代わりに行くって言うなら、俺はそれでいいけどよ。じゃあ任せたぜ。」
「うん。じゃ、またね。」
「おう。」
神崎、ジャッカルじゃなくて俺が行ったらびっくりするかな、なんて思いながら、自分のクラスに戻った。
昼休み、神崎より先に自習室Dに向かった。
神崎まだかな、なんて思っていたら、扉が勢いよく開いた。
「ジャッカル!はいっ、お礼のメロンパン!…って、うわぁ、ごめんなさい、あれ、部屋、間違え…」
「間違えてないよ。ジャッカルの都合が悪くなったから、俺が代わりに来たんだ。」
「あ、そうだったんだ。なんていうか、手間とらせちゃってごめんね、幸村君。一人でがんばってみるから、教室戻っていいよ。」
なんか、ちょっと、カチンときた。
ジャッカルには頼るのに、俺には頼れないって言うわけ?
いやいや、だめだ。ここでこんなこと言ったらこわがられる。
がんばって気持ちをおさえて、ちょっと寂しげな表情をつくった。
「そっか、ごめんね。神崎の助けになれたらいいなって思ったんだけど、迷惑だったかな?」
「めっ、迷惑なんかじゃないよ、幸村君!むしろ嬉しいよ、ありがたいよ!(だからなんかその捨てられた子犬のような顔はやめて!)」
「ふふ、よかった。じゃあ、先にお昼食べてから勉強しようか。」
神崎はやっぱり優しいね、なんて思いながら笑うと、神崎は戸惑いながらもうなづいて俺の隣に座った。
「神崎はさ、よくジャッカルに頼るよね。」
「え、そうかな?」
「うん、そうだよ。」
今日みたいに勉強を教えて欲しいとか、辞書や教科書を忘れたとか、あ、シャーペンとかお弁当を忘れたこともあったな。
「クラス違うジャッカルじゃなくてさ、もっと俺のことも頼ってよ。同じクラスなんだしさ。」
「いや、そんなわけには、」
「迷惑、かな?」
「迷惑じゃないです!ありがとう、今度からは全力で幸村君を頼るね!」
「うん、そうして。」
俺が寂しげな顔をしまって、すぐに笑顔になると神崎はちょっと顔をひきつらせた。
「えっと、うん。(あれ、なんだか私もしかして、幸村君にのせられてる?幸村君って、もしかして策士?詐欺師?あ、それは別人か。)」
あ、寂しそうな顔わざとって気づいちゃったかな?ま、いっか。もう、全力で俺に頼るって言わせたし。
これからは他の男になんて頼れなくなるくらい、俺に頼ってくれたらいいな、なんて思って、自然と笑顔になった。
「(ゾクッ)あれ、なんか今寒気が。」
「ふふ、気のせいじゃないかな。」