白石君とおはようメール
朝起きて、すぐに枕元の携帯を手で探った。
from:白石君
おはよう。今日めっちゃ晴れてんで!朝練行ってくるなー。
ほな学校で。
朝起きてすぐに白石君からのおはようメールを読んで返事をすること、これがここ3ヶ月くらいずっと続いている日課で、私の幸せの源。
なんで白石君からおはようメールが来るかというと、びっくりなことに、私と白石君は付き合っているからだ。
さかのぼること3ヶ月前、私は3年目に突入した恋心にけりをつけようと、当たって砕けろ精神で告白したら何故かokをもらってしまったのだ。
嬉しいよりも、なんで、という感情ばかりわいてきたのは、しょうがないと思う。だって、白石君だし。
どうして白石君がokしてくれたのかはわからないけど、せっかくならなるべく長く付き合えるように、迷惑かけないようにしようと頑張っていたら、あれから3ヶ月も経っていた。
3ヶ月っていったら、普通ならたぶんいろんな思い出がたまってくる頃だと思うけど、私と白石君には、この3ヶ月続いているおはようメールくらいしか思い出がない。
本当は、部活が終わるのを待って一緒に帰ったりしたいんだけど、なんだか隣を歩いたら不釣り合いな気がして歩けないよ。
同じ理由で、学校でもあまり話しかけられないし、白石君が話しかけてくれてもうまく返事できなくてどもっちゃうし。
それでも、この毎朝続いているおはようメールだけで、本当に幸せ。白石君から貰ったメールは、私の大事な宝物なんだ。
「おはよう、伊織。」
「おは、よう、白石君。」
よし、今日は結構まともに挨拶できたかも。最初は、白石君、って名前も呼べなかったし、進歩進歩!
「あんな伊織、」
「え?」
白石君は珍しく、挨拶を終えても自分の席に行かなかった。
「えーっとな、明日の土曜、空いとる?」
「え?えっと、空いてる。」
こんなこと聞かれたのは初めてだったから、不思議に思いながら答えると、白石君は綺麗に微笑んだ。
「ほな、一緒に出かけへん?部活休みやねん。」
「え、うん、…行く!」
白石君は詳しい時間と場所を言ってから、自分の席に戻って行った。
どうしよう、これはまさか、まさかまさか!
デートだ!
初デートだよ、初デート。どこ行くのかな、何着て行こう、白石君の私服どんなのかな。いろんな考えが溢れてきて、表情が緩みそうになって、ちょっとひきしめた。
今日が始まったばっかりなのに、もう明日が楽しみ!
学校ではあんなに嬉しさ100%だったのに、家に帰って冷静になるにつれて、だんだん不安が大きくなってきた。
今まで3ヶ月、部活が休みなときでも、こんな風に誘ってくれることなんてなかったのに、いったいどうしていきなり誘ってくれたんだろう。
もしかして、何か重大なお話がある、とか?
例えば、別れ話とか、
「あ、ありえる!」
私ったら、それなのに何浮かれてたんだろう!毎朝私を幸せにしてくれていたおはようメールが、もしかしたら明日で最後かもしれないと思うとかなしくて、明日なんて来なきゃいいのに、と思った。
とりあえず、最後くらいは白石君にいい印象を残したいし、遅刻しないように早く寝よう。
朝、起きていつものように枕元の携帯開くと、いつも通りの待受画面が見えるだけで、メールは来てなかった。
白石君と付き合ってから、おはようメールが来なかったのは初めてだ。
いや、今日会うから、だから送らなかっただけだよね、なんて、自分に言い訳をしてみても、むなしいだけ。
だって白石君はいつも、数時間後に学校でおはようを言えるっていうのに、おはようのメールを欠かしたことなんてなかったんだから。
もう、おはようメールを送るのも嫌なくらい、愛想つかされちゃったんだ。
行きたくないな、でも行かなかったら白石君、別れ話がちゃんとできないから迷惑だよね。頑張って行こう。
待ち合わせの20分前に約束の場所に着くと、白石君はもう待ってくれていた。
時計を見ながら立っている姿はキラキラしてて、やっぱり私はあの人の隣にはふさわしくないな、なんて改めて事実を突き付けられた気がした。
私は何故か足が動かなくなってしまって、白石君がいる場所から少し離れた場所で立ち尽くした。
白石君から初めてメール来たとき、嬉しかったな。なんてことないメールなんだけど、それでも。
呼び名も、いつのまにか、神崎さんから伊織になってて、初めて呼ばれたときはびっくりしすぎて白石君に笑われたっけ。恥ずかしかったけどそれより、白石君は綺麗なのに楽しそうに笑う人だなって思ったんだ。
風邪で休んだら学校からメールしてくれて、お見舞い行くって言ってくれたこともあったな。うつったらいけないから来ないで大丈夫って返信したら、ほな明日まではお見舞い行くの我慢するからその間に治し、なんてメールを送ってくれたのが嬉しくて、必死で1日で治したっけ。
本当に、本当に、楽しかったな。
「伊織っ?どないしたん?どっか痛いん?」
少し離れていたはずの白石君が、気がついたら目の前にいた。
白石君がハンカチ拭いてくれて初めて、泣いてることに気づいた。
早く泣き止まなきゃ。最後なのに。最後にこんな迷惑かけたくないのに。
でも最後だと思えば思うほど、涙は止まってくれなかった。
「しっ、白石君、」
「おん、どないしたん?」
白石君の声は心配そうだけど、とっても優しかった。
「す、好き。白石君が、好きなの。だから、一緒にいたくて、迷惑かけないようにって、頑張ってたんだけど。でも、白石君が別れたいって、」
「え、ちょい待ちや、伊織。」
「あ、ごめんなさい。」
つい泣いて取り乱して、自分の思いを溢れるままにぶつけてしまった、と思って謝ると、白石君は、いや、謝らんでええねんけどな、と、また優しく言ってくれた。
「えっとな、俺、今日伊織と初デートや、って浮かれとったんやけど、もしかして、それ俺だけなんかな?」
「え、別れ話じゃ、ないの?」
「はぁ?なんでやねん!せっかく付き合えたんに、なんで別れなアカンねん。…もしかして、なんか俺迷惑かけた?」
白石君は見たことがないくらい必死な顔をしていた。
あれ、なんていうか、もしかして私、何か勘違いした?
「私は別れたくない、けど、白石君も、別れたくないの?」
「あったり前やろ!俺かて別れたないわ。」
そっか、よかった、と笑うと、白石君も安心したみたいに笑ってくれた。
「せやから、俺の恋人でおってな。」
「うん!…あ、」
「ん、どないしたん?」
「えっと、今日おはようメール来なかったから、どうしたのかなって。」
それもあって、愛想つかされちゃったのかもって思ったんだ、と言うと、白石君は、ちょっと顔を赤くして横を向いた。
「…初デートに浮かれすぎて、めっちゃテンション高いメールしか打てんくて、ひかれてデート来てくれんかったらどないしよって思ったら送られへんかってん。」
「ぷっ、そんなことで不安に思ってたんだ。」
「あ、わろたなー!自分かてさっきまで別れ話なんちゃうかーって不安で泣いてたやんけ。」
なんだかおかしくなってしまって、二人で顔を見合わせて笑った。
白石君って、私のこと好いてくれてたんだね、とちょっと照れながら小さい声で言うと、白石君は照れながら、好きにきまっとるやろ、と返してくれた。
思いをちゃんと伝えたおかげで、なんだか白石君との距離がぐんと近くなった気がする。
白石君の照れた笑顔を見ながら、これからは勝手に距離を置いたり、メールだけで満足しないで、今日みたいに白石君にぶつかって行きたいな、って思った。
とりあえずは、
「ねえ、白石君、手、繋ぎたいな。」
「おん、俺も。」
白石君の嬉しそうな笑顔を見て、やっぱり素直になってよかった、と私も嬉しくなった。
四天∞企画
みかさんのリクエストで「白石君と切甘恋愛」でした。
リクエストありがとうございました!
prev next